待ち時間が長いわけ

同じようにアレルギーの外来をしていても、最近は、ひとりひとりの患者さんに対応する時間が長く、予約外来でも時間がずれこんでお待たせすることが増えています。いつもすみません。でも、どうしてかなあと考えてみました。
まず、アトピー性皮膚炎です。塗り薬をポンと出して、塗っといてねーというのは簡単ですが、それでは絶対患者さんは塗ってくれません。塗り薬は、どの薬をどこにどのくらいの量、どのくらいの頻度でどれだけの期間塗るか、ということがわからないと患者さんはうまく塗ることができません。ですからその説明をし、さらに当科では、訓練された看護師がそのデモンストレーションをして、お母さんに子どもへの塗り方を指導します。それは前からやっていたことなのですが、ここ数年、TARCという検査値が、アトピー性皮膚炎の炎症の程度を現す指標として導入されました。TARCが高いと重症なので、ステロイドを塗って見た目は良くなったように見えてもまだ皮膚の中には炎症が残っていて、ステロイドを中止するとまたもとにもどってしまいます。TARCが正常化するまで、少しずつステロイドを減らしながら継続するプロアクティブ療法というのが最近の専門医の治療です。以前はステロイドを三日塗って三日休んで、はい、2か月後にまた来てね、という治療が主体でしたが、このプロアクティブ療法はしばらくステロイドを塗り続けるので、その根拠を詳しく話してお母さんに塗っていただかないといけないし、2週間、3週間先にまた塗り方を変更するのでこまめになんども外来に来ていただくことになります。これが混みあう理由のひとつかな。
それから食物アレルギーの患者さんも増えました。多くは赤ちゃんの時卵や乳・小麦のアレルギーがあっても、1歳2歳と進むと食べられるようになってきます。少しずつ安全な食べ物の増やし方があるのですが、それを細かくお話するのに時間がかかります。「卵のはいったもの、少しずつ食べてね」とひとこという医師も多いのですが、それではお母さんは、パンなのかお菓子なのか、マヨネーズなのかプリンなのか、少しずつってひとくちなのか1個なのか、わかりません。また、以前はIgE の値がぐっと低下する5-6歳まで除去をしていたのですが、アレルギーの世界では最近は早く食べたほうが早く治る、というのが定説になってきて、ますますIgE 値のまだ高い小さな子に食べさせるようになってきました。それだけリスクがありますので、細かい食べ方の指導や増やし方、症状が出た時の対応を話すのに時間がかかってしまいます。
これらの患者さんには1人に10-15分のお話が必要なのに1時間8-10人で予約を組んでいますのでなかなか時間通りに進んでいかないことが多く、さらに今の季節は意見書・診断書・生活管理指導表も書かねばなりません。ひとつ身でどう効率よくしかも患者さんに満足してもらえる診療をするか、模索中です。

吸入方法の落とし穴

喘息の治療では、吸入療法が重要です。喘息の病気の部位は気管支なので、吸入療法は、薬を吸って気管支に直接効かせる効率のいい方法なのです。ただし、正しい吸入方法で、ちゃんと薬が気管支に入っていないとうまく効きません。正しい吸入のやり方を患者さんに指導してできているか確認するのも専門医の仕事です。
吸入の中でも、ジェット式ネブライザーを使って液体の吸入ステロイドを霧状にして吸うと、普通の呼吸をしていても気管支に入るので炎症を抑え、乳幼児の喘息発作予防によく効きます。予防の薬なので、毎日続けなければなりません。しかし、この吸入を毎日していても発作が減らない、という患者さんがときどきお見えになります。もちろん、これが効かないくらいすごーく重症な患者さんもまれにいますが、まず、吸入のやり方がよくないのではないか、と疑うほうが先なのです。
ひと昔前は、まず吸入器がぜんぜん別物、ということがありました。液体を霧状にして口から吸うのを吸入というので、時々、のどをしめらせるような耳鼻科用の吸入器(値段も安価で、電器屋さんでも買える)を自分で買ってしまう患者さんがいました。喘息用の吸入器は、霧を細かい粒にするので気管支まで到達するのですが、このような吸入器では粒が大きいので全部のどについてしまい、薬は効きません。二つ目は、吸入器の出口、マウスピースを口元において、霧をただよわせている場合です。これではほとんど薬が入っていません。マウスピースは筒状になっていて、これをくわえてゆっくり呼吸することで、薬が気管支に入ります。小学生以上になるとできますが、乳幼児では無理なので、マスクで口と鼻をおおって呼吸してもらうことになります。三つ目は「時間指定吸入」です。薬は、1~2mlの液体で、ジェットネブライザーで霧にすると、吸入器にもよりますが、全部終わるのに10分以上かかります。赤ちゃんや小さい子は長時間じっとしていることが難しく、泣いたりぐずったりやめて遊んだりします。それをいろいろ工夫して、親がしっかり意志を持って続けると、そのうち子どもは慣れて上手に吸入を続けることができます。その指導も実はコツがあります。時間がかかって無理、というので吸入時間を5分とか指定する先生がときどきいますが、液が残っていれば、薬はそれだけ残っているわけですので、霧が出なくなるまで吸入するのが基本です。さらに、最近来られた患者さんで、ステロイドの吸入液とインタールという抗アレルギー剤の吸入を混ぜてやるように指示されていた患者さんがいました。どちらも抗炎症作用のある予防薬ですが、どちらかを選択するのが普通で、ステロイドが普及してからは、作用の弱いインタールは予防薬としてはあまり使われなくなりました。配合変化というのもあって、混ぜて使ってよいというデータもありません。混ぜてしかも時間指定でやめていましたので、せっかくのステロイドは1/6も入っていないと考えられました。
吸入療法はちゃんとしたやりかたで気長に続けましょう。どうしてもできなければ、時間のかからない加圧噴霧式定量吸入器もあります。でもこれも吸入補助具が必要なので、しっかり習ってくださいね。

12月の講演

12月はおもしろい会に呼ばれました。一つは、キャンプ協会・青少年事業団主催の野外活動指導者のためのリスクマネジメントセミナーです。12月7日にその会で、食物アレルギーや喘息など、キャンプ活動中での注意と対策の講演をしてきました。子どもたちにとって、キャンプは自然のなかで自分の肉体を使って新たな体験をし、また仲間たちとすごす楽しい時間です。でも、アレルギーの子どもたちは増えているので、キャンプを主催する施設や機構の運営者や、リーダーと呼ばれる指導者たちはすごく気を使っています。少年自然の家の管理栄養士さんは、なんとなく除去、みたいないいかげんなものからアナフィラキシー既往者の除去まで、対応して除去食の食事を工夫してくれていますし、魚つかみのキャンプに参加した魚アレルギーの子どもへの対応の報告など、皆さんとても熱心で真摯なので驚きました。100人くらいの聴衆もとても熱心に研修されていて、子どもたちの味方がここにもいた、と心強く感じました。
もう一つは、13日に京都であった日本子ども健康科学学会という学会です。医師だけでなく、子どもをとりまくいろんな職種が、子どもの健康についていろんな問題を勉強しようという会なのですが、私は初めて参加しました。実は特別企画「子どもの健康と‘ソーシャル・デザイン‘アプローチ」という中でシンポジストをしたのです。昨年まで、喘息の子どもたちの家庭のダニアレルゲンを測定し、掃除の指導介入をすると1年後子どもたちのダニIgERASTも下がるのではないか、というテーマでダスキンと共同研究をしていて、医療と企業との連携ということでダスキンの共同研究者と一緒にお話しました。医者は私一人で、もともと企画したのが電通の社員で健康情報学を研究しているコミュニケーションデザイナーの男性。あとは、日本初のクラウドファンディング会社をたちあげ、今までネットで9億円を集めたという若い女性と、アサヒグループでCSRといって企業が社会に貢献しますという部門の女性。いわゆる業界が違うってやつで、日頃診療ばかりしているとお会いしないお仕事の方ばかり。とびかう言葉もちんぷんかんぷんでしたが、ソーシャルデザインというのは、同じ目的をもった立場の違う人たちが共同していい社会をつくろうよってことかな?それをこどもの健康を守ることにいかせないかという超画期的な企画でした。新しいことに出会うととまどいますが、でも面白かったです。
師走に入って寒波が続き、一気に冬になりました。気温が下がるにつれて病気も増え、先々週から、インフルエンザもRSウイルスも急増し、高熱が続く患者さんの中に、溶連菌もアデノウイルスもあったりします。うがい、手洗い、十分な睡眠が大切ですよ。皆様お元気で師走をお過ごしください。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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