今月の独り言
食べられるようになるには・・・
こどもの食物アレルギーの多くは乳幼児期でよくなっていきます。赤ちゃんの時に卵を食べて赤くなった、ミルクを飲んで吐いた、などあっても、大きくなると自然に食べられるようになっていくことが多いのですが、それには、あまり気にせずにいろいろ食べていることが前提です。怖がって、一切食べないとか、検査をしてIgE値があれば皆除去しちゃうと、本当に食べられなくなってしまうのです。食物アレルゲンは、食べることによって免疫をつける(経口免疫)ことができることがこの10年くらいで実証され、2017年に日本小児アレルギー学会が、「アトピー性皮膚炎のある乳児は、6か月までに皮膚をきれいにして、卵を微量から摂取することで卵アレルギーを予防できる」という提言を出しています。
食べた時の症状が強い患者さんや、IgEがすごく高い患者さんには、食物負荷試験をします。微量の食品を医療機関で食べてみて、本当に症状が出ない量を確認するのです。ここでパスしたら、お家で少しずつ増やして慣らしていくのです。専門医がちゃんと量や間隔を指定して指示するのを経口免疫療法というのですが、重症の食物アレルギーの患者さんが食べられるようになるには、いまのところこれしかありません。
ただ、週に3回、量を測りながら、アレルゲン食品をきちんと食べていくことはそんなに簡単ではありません。食べて2時間は、外出や入浴を控えて家で観察しなければならないし、体調が悪いと同じ量でも症状が出たり、手持ちの薬で治まらずに救急に行くこともあります。それだけ、精神的にも時間的にも負担のある、リスクも伴う方法です。でもこれしかないのです。とくに、働いているお母さん、保育園に行っている子どもたちは生活に時間的余裕がなくて、忘れたりやめちゃったりすることも少なくありません。私の仕事のひとつは、2-3か月に1回、お母さんにその進捗状況を聞いて、食品の増やし方や種類で、やりやすく安全な方法を提案し励ますことです。
それから、年長のお子さんになると、「食べない」ことがあります。卵や乳は食べなれていないとおいしいと思えず、食べて何らかの違和感を感じるのか、「食べてくれない」、「嫌がる」と訴えるお母さんもいます。食べて増やして慣らしていくやり方なので、食べなければ始まりません。怖い思い、不安な思い、いやな思いをしながら週3回食べるのが大変であれば、経口免疫療法をせずに、「食べない生活」を選ぶのも一つの道かと、最近は考えるようになりました。このいろんな食べ物があふれている時代に、卵や乳が一切食べられないというのは不便だし、誤食で重い症状が出るリスクもあるのですが、それなりに子どもも大きくなるにつれて、食べられないものを認識して、自分の身を守る知識と技術をもつしかありません。友人と外食に行っても、自分の食べられるものを選んで注文できるようになり、何か異常があれば薬を飲んでエピペンを自己注射する、救急車を呼ぶ、などです。
家族の努力で経口免疫療法を続けたたくさんのこどもたちが、何年もかかって食べられるようになって卒業していきました。それは専門医としてうれしいことですが、食べない、食べられない、という、経口免疫療法にのれない子どもたちと家族をどう支えていったらいいのか、まだまだ考えなければならないことがあります。