今月の独り言
感染症の1年でした
年末になり、発熱患者さんがあふれています。
インフルエンザが急速に増えていますが、普通のかぜも多いし、今年はずっと続いている溶連菌感染症も混じっています。
熱型表は必ずつけて来てください。この形で、インフルエンザ、アデノウイルス、溶連菌など、それぞれの感染症に特徴があり、診断の助けになります。熱型と症状と診察所見で、疑わしい感染症の検査をします。
検査もいろいろで、インフルエンザは鼻腔で検査しますが、熱が出てから12時間以内では陽性率約35%、24時間で70%といわれています。出れば間違いないが、感染していても出ない偽陰性も多いのです。時間がたってウイルスが増殖して増えれば、陽性になりやすくなります。熱が出て3時間でも、高熱でぐったりしていると陽性に出ます。急速に増殖しているかもしれないし、熱に気がつく前から微熱で感染がおこっていたのかもしれません。
溶連菌は以前は、熱と扁桃腺炎(扁桃が赤くて痛くて、膿がついている)の所見があって初めて疑ってのどの検査をしていましたが、今年のように大流行していると、あまり赤くなくて膿がついていなくても調べると陽性のことがあります。今までは溶連菌を見逃していたのかもしれません。
今年はマイコプラズマも流行しましたが、高熱ではないが熱がだらだら続き、とにかく咳がひどいのです。マイコプラズマは細菌ですが、細胞内に入って増殖しないタイプなので、鼻やのどの検査で出る確率が少ないのです。なので、検査で陰性でも症状から怪しければ抗生剤が処方されることもあります。
こういう状況ですし、溶連菌の診断で抗生剤飲んでいても熱が下がらず三日目に調べたらマイコプラズマ陽性だったり、インフルエンザで薬飲んでも下がらず次に来たら溶連菌陽性だったりと、混合感染もちょくちょくあります。1週間熱が下がらなかったり、食欲がなくぐったりすると、入院を勧める例も何人かありました。
感染症の多い大変な1年でしたが、皆さんよくがんばりました。お正月はゆっくり休んで、また来年がんばりましょう。
肌荒れと体調を崩す
受診された患者さんに「どうされました?」と聞くと、よく返ってくるのが、「肌荒れがあって・・・」と「体調を崩しまして・・・」という文言です。
「肌荒れ」とは、国語辞典で見ると、{肌が荒れること、皮膚がかさかさになること}とあります。医者の感覚では、“乾燥肌”という受け取りをします。でも、どこですか?とその場所を診ると、湿疹だったり、とびひだったり、治療の必要な“皮膚の病気”のことが多いのです。それはそうでしょう、困って、なにか治療を求めて受診されているのですから。かゆみも痛みもないただの乾燥だったら、保湿クリーム塗って様子見、となりますよね。ですから患者さんのいう「肌荒れ」というのは、何らかの皮膚トラブル、ととらえたほうがよさそうです。よく「ぶつぶつができて・・・」というのもありますが、さあ、このぶつぶつが、湿疹なのか、発疹なのか、じんましんなのかは診ないとわからないし、どれかによって対応が異なります。ときどき診断のつかないぶつぶつで、皮膚科に紹介することもあります。
「体調を崩す」は、国語辞典では{体の調子を良好に維持できていない状態}とあり、まあその通りですよね。患者さんはそれで困って受診されてるのですが、医者の側としては、何がどう不調なのかを言ってもらわないと、診察もできません。それで、どこがどう悪いのですか?と尋ねることになります。足のここがいたい、とかおなかが痛くて下痢をしている、というようなことは初めからおっしゃることが多いのですが、なんとなく頭が重くて、とか最近食欲がなくて、とかあまり眠れなくて、という体調の崩し方だと、高血圧から脳腫瘍から胃潰瘍からうつ病まで、いろんな病気が考えられます。内科の先生は大変だなあ。実は小児科医は、子どもの体調が悪いのを親が見て連れてくるので、初めから「熱が出て・・」とか「咳がひどくて」とか、「下痢が続いて」とか具体的な症状を言ってもらえることが多いのでその分楽です。それと開業医で診る子どもの病気はかたよっていて、大半は感染症かアレルギーです。先天性の病気は早くにわかって専門病院で検査・治療を受けていることが多いし、悪性疾患や膠原病も開業医に最初に受診することもあるかもしれないけれど、ごくまれで、経過をみて診断がつかなければ病院に精査をお願いし、自分で診断・治療することはめったにありません。
その感染症・呼吸器領域では最近、いろんな病気がいっぺんに流行中です。溶連菌、インフルエンザ、マイコプラズマ、その他名前のつかない感染症。たくさんの患者さんの熱型表を見て、症状を聞き、診察して、必要な検査をそれぞれに選択して診断をしていきます。診断がつけば治療を行うか病気の経過をお話しするし、診断がつかなくても、どういう状態になるまで何に気をつけるかをお話しし、よくなるまで何回も診ます。何にせよ、ひとりひとりよくなると、ほんとにうれしいです。
マイコプラズマ流行中
気管支炎や肺炎を起こすマイコプラズマが流行中です。
小さな子には少なく、6歳以上が多いとされていましたが、今年は幼稚園児でも見られます。熱と、続くしつこい咳です。乾性咳嗽といって、あまり痰はからまず乾いた咳が長引きます。マイコプラズマは細胞壁をもたない細菌です。なので、一般的な細菌用の抗生剤、ペニシリン系やセフェム系は細胞壁合成阻害で抗菌作用があるので、これらは効きません。蛋白合成阻害薬であるマクロライド系やテトラサイクリン系が効果的です。細菌感染は、その病態が、何の感染かを見極めてそれにあった抗生剤を投与せねば意味がないのです。そもそも小児の感染症の90%くらいはウイルス感染で、抗生剤は効きません。
ウイルスは自分で生きていくことはできず、細胞内に入り込んで寄生して増殖します。なので、ウイルスの増殖を抑えるか、ウイルスの細胞への侵入を防ぐことによって抗ウイルス剤が作られますが、特定のウイルスにしか薬がありません。重症化するリスクがあるヘルペスウイルスや、大多数の感染がひろがるおそれのあるインフルエンザウイルスなどです。しかしこどもの発熱をおこす多くのかぜのウイルスには薬がありません。言い換えれば自分の免疫力・体力でしのぎながらよくなるのを待つしかないのです。
ちょっと熱が出たり続いたりすると、それがなんの感染か考えも調べもせずに安易に抗生剤を出す医者も多く、それでもよくならないと当科を受診する患者さんが最近多いです。40度熱がありのどが赤いねとセフェム系の抗生剤を3日分出され翌日には熱が下がった1歳児。のどをみると赤みのなくなった扁桃炎の所見。溶連菌だった可能性があります。溶連菌が検出されればペニシリン系10日間内服、が原則です。検査で陰性になっていたので薬は追加しませんでしたが。
マイコプラズマが流行中なので、ちょっと熱があって咳があるとすぐにマイコ用の抗生剤が短期処方される。それでもよくならない。マイコプラズマは耐性菌も増えているので、抗生剤の投与の順番があります。有効なら1週間は内服が必要です。ほんとにマイコだったのか、マイコだけど薬が効かなかったのかはあとからは判断が難しいのです。マイコの検査とかレントゲンとかちゃんとやってほしいなあ。たいていは気管支炎で終わり、薬が効けば熱は二日で下がり、咳は続きますが、家庭内安静で1週間くらいでよくなります。しかし先週は、レントゲンで肺炎もあり、最後のミノマイシンでもよくならず入院をした小学生もいました。熱が13日続いていました。
ちゃんと診察して、何が熱の原因か推測して検査を行い、必要なら投薬して、必ず、2~3日でよくなるか確認する、あるいはちゃんと親に病態を説明することを日々やっています。まるで探偵捜査のようですよ。