アトピー性皮膚炎とTARC

最近、アトピー性皮膚炎の治療に、TARCという検査が使われています。これは、皮膚の炎症の程度を示すケモカインという物質で、アトピー性皮膚炎の重症度の評価に使われます。高いほどアトピー性皮膚炎は重症で、よくなってくると正常になります。アトピー性皮膚炎は、かゆみ、赤みのある湿疹が慢性的に続く皮膚疾患ですが、ステロイドの塗り薬を塗ると、見た目にはずいぶんよくなります。でもやめるとまた皮膚の症状がぶり返し、患者さんはそれを長期に繰り返すと、ステロイドは効かない、とかステロイドはやめられない、と思い、不安になっていくことがあります。昔はリバウンドと言って、ステロイドを塗ってよくなってもいきなりやめるとわっと悪化することが恐れられていました。
でも結局ステロイドという薬が悪いのではなく、アトピー性皮膚炎の炎症の成り立ちがわからず、薬の使いかたが悪かった(患者さんの塗り方が悪いだけでなく、ちゃんと指導しなかった医者も悪い)ということがわかってきました。十分炎症がよくならないうちに薬をやめてしまうのがよくないのです。
たとえば、湿疹のひどい赤ちゃんにステロイドを数日塗ると、3-4日でみためはきれいになります。でもやめると数日でまたすこしずつ、ぶつぶつかゆかゆが出てきます。これが、TARCを測定することで、炎症の程度がわかり、ステロイドを早くやめるのではなく、少しずつ減らすことで、悪化なく治すことができるようになりました。TARCが高いほど炎症は強いので、数日ぬっただけでは炎症がおさまらずまたぶり返すだろうと予想ができます。そういう患者さんには、もっと長期に塗り、そのかわりステロイドのランクを下げる、塗る回数を減らす、毎日でなく、週に3回、2回と少しずつ減らしていくのです。すると、重症のアトピー性皮膚炎の赤ちゃんでも、数か月できれいになり、ステロイドがいらなくなるのです。TARCも正常になります。
アトピー性皮膚炎です、と診断すると、治らないんですよね、と悲しそうに言うお母さんがいらっしゃいます。でも、「治らないアトピー性皮膚炎」は、治療が不十分で長引いて慢性化していただけで、最初の段階でちゃんとしっかり治療すればほんとに治っちゃうんです。もちろんアレルギー体質自体は治らないし、皮膚が敏感だったり乾燥肌であるのに対してはスキンケアが必要ですが、それは、お母さんが夜洗顔のあとに化粧水を塗るのといっしょです。習慣にすれば、なんということはありません。
それから、塗り薬の塗り方指導は必須です。薬だけ患者さんに渡しても、十分に塗ってくれることはほとんどありません。うちでは初回に看護師がデモンストレーションをしています。早くかゆくて不愉快なのを治して、つるつる皮膚にしましょうね。

経皮感作って何?

アレルゲンが体内に入って、それに反応するとくべつな(特異的な、といいます)IgE抗体というアレルギーの抗体を作って持っていることを「感作」といいます。IgEをつくりやすい体質がアレルギー体質ですが、遺伝的にこの体質が強いと、なんでもかんでもいろんなものにIgE抗体を作ってしまう人がいます。でも感作されていることとアレルギー症状が出ることはまた別なのです。卵のRASTが高くても、食べても平気なひともいるし、ダニのRASTが高くても喘息も鼻炎も自覚症状のないひともいます。ですから、アレルギーの検査は、患者さんの症状や経過など、総合して判断することが重要で、そこで専門医の出番になります。
最近「経皮感作」といって、皮膚から食物アレルゲンが侵入してIgE抗体を作ることがわかって問題になってきました。米国で、ピーナツオイルでベビーマッサージをした乳児にピーナツアレルギーが多いと報告されたのが始まりです。日本でも少しまえに「茶のしずく」という石鹸でたくさんの使用者に小麦アレルギーが発症した健康被害が問題になりました。泡立ちをよくするために加水分解小麦を入れた石鹸を使っていると、小麦に感作され、食べるとアレルギー症状が出るようになったのです。
小学生の男の子で一時的にこれになった人がいました。もともとアトピー性皮膚炎はなく、ダニやホコリや花粉に感作されているアレルギー体質のつよい子でしたが、たまたまお母さんが友人からこの石鹸を1個だけもらって、浴室においておいたのです。泡がたっていろんな形ができるのがおもしろかったらしく、それで洗ったというより、遊んでいたらしい。1個だけだったので、期間は1か月もなかったといいます。ところがしばらくすると、今までどうもなかったのにうどんやパンをたべると顔が赤くなるようになりました。調べると小麦のIgE抗体が上がっているのです。でも半年くらい小麦をやめていると、IgE抗体はなくなって、またもとのように食べられるようになりました。明らかに経皮感作で、短期間で普通の皮膚でもアレルギー体質のきついひとはすぐに感作されるのだなあと実感しました。よくなってよかったけど。
ですから最近はアトピー性皮膚炎の赤ちゃんは早くから皮膚の治療をしようということになっています。湿疹のある皮膚はバリア機能が低下し、なんにでもすぐに感作されてしまうからです。
皮膚に直接つけるものには十分注意しましょうね。

秋の始まりと喘息と

今年の夏はほんとに暑かったですが、やっと最近になって朝夕秋らしい涼しさが感じられるようになりました。でも、朝夕の温度差は、喘息の患者さんにとっては要注意で、当クリニックでは、9月第1週後半から明らかに喘息発作が増えています。毎年のことですが、気道の過敏な方は、鼻水が出やすくなったり、咳が増えたり、喘鳴(ぜいぜい)が出たり、要注意の季節です。
乳児喘息と言って、2歳未満の喘息の子どもたちはただでさえぜいぜいいいやすいのですが、この時期かぜをひくと悪化することが多いのです、2-3歳になるとウソみたいによくなっていくのですが。当クリニックでは、常時乳児喘息の重症の患者さんを5~10人抱えています。先週は、1人入院していただいて治療中、そのほか4人は吸入や飲み薬を追加してお家でがんばっていただいています。単なるかぜですまずに、咳で眠れない、機嫌が悪い、救急外来に走る、吸入や薬は増える・・・ほんとにお母さん始めご家族の大変さ、不安は、経験しないとわかりません。なんとか入院せずにすむように、なんとか最低限の薬で乗り切れるように、これはアレルギー専門医の腕のみせどころです。小さいお子さんは一晩であっという間に悪くなるので、ヤマを超えるまでは眼が離せません。でも、大人の喘息と違って子どもの喘息は、一時期ほんとにひどくても、成長とともによくなっていくのでやりがいがあります。お母さんたちを励ましながら、治療を続けながら子どもたちの成長を待つのです。
私の担当していた喘息のほんとに重症だった患者さんの一番年長は、もう20年のおつきあいになります。今年24歳男子大学院生、来年の就職が決まりました。たぶん小児期に入院した回数は15回くらいでしょうか。ほんとにお母さん始めご家族は大変だったと思いますが、いつも前向きに、治療に取り組んで来られました。ちゃんと受験もし、中学高校と野球にも頑張って、いい青年に成長してくれました。未だにお母さんが毎年年賀状と暑中見舞いのハガキをくれて、ほとんど発作も出なくなりました。発作がなくなるとご縁がうすくなるというジレンマはありますが、縁が切れていくことは主治医としては寂しいことですが、それだけ彼がよくなってくれたことで、小児科医としてはうれしいことでもあるのです。
まだ今から発作のシーズンです。喘息に負けずに楽しい行事の多い季節を楽しみましょう。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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