今月の独り言
喘息児の自立と支援
近畿各地の紅葉も盛りの頃です。11月21、22日は奈良で日本小児アレルギー学会学術集会に参加しました。学会長が天理よろづ病院の南部光彦先生で、彼は京大の先輩です。小児医療にものすごい熱意を持っている先生で、その思いのこもったプログラムや人選で、とても盛り上がりました。
 私は、「喘息児の自立と支援」というシンポジウムの座長を仰せつかりました。
子どもの喘息は、7割が3歳まで、9割が6歳までに発症します。そして多くの患者さんは、よくなっていきます。薬がなくても発作が出ない状態を「寛解」と言いますが、喘息が良くなるすなわち「治癒」するというのはなかなかハードルが高くて、5年間寛解状態で、しかも呼吸機能や気道過敏性が正常である、ということになっています。半数以上の子どもたちは成人するまでに寛解しますが、成人してから再発するひともいるのです。私は必ず患者さんが6歳以上になると、呼吸機能や呼気NOによる気道過敏性の検査をし、薬を減らして治っていけるか、成人喘息に持ち越すタイプかを鑑別していきます。それが喘息治療の基本になっています。
 成長するにつれ喘息の子どもたちは、精神的にも生活上も自立していくわけですが、それをどう支援するか、というのが今回のシンポジウムの課題でした。ずっと小児科で治療を続けてきて、どのタイミングで内科に引き継ぐかというのは大きな問題です。シンポジストは、小児科医、養護学校の先生、NPO患者団体の代表、それから心理学の先生でした。
 進学や就職で実家を離れる時が、病院も変わり、小児科から内科に移行する時期ですが、かならずしもスムースに継続できないということ、初めての土地で一人暮らしになると、困った時の相談できる場所や医療機関が見つからないこと、自立をうながすにはもっと子どものころから困難を乗り越える力、自分はちゃんとやれるという自信をつけておくような心理的トレーニングが必要であること、という内容が提示され討論されました。
 なかなか難しい問題です。お母さんに話して説明をするということが多い小児科医ですが、3歳以降になったら、子どもたち自身に話しかけ、ちゃんと説明をしようと改めて思ったことでした。
秋も深まると・・・
10月になると、いろんな風邪が流行し始め、喘息発作も増えて来ました。今朝も朝から風邪、咳、ぜいぜい、という患者さんがたくさん来られました。単なる風邪もありますが、喘息発作もあり、のどから出るひどい咳き込みのかぜ、マイコプラズマ感染などいろんな状態の患者さんがいます。それを聴診や咳の状態や検査で、仕分けして、適切な薬を処方しご家族に説明するのが私の仕事です。
 先週日本小児呼吸器学会が倉敷で開催されました。会長の尾内一信先生は川崎医大の教授で、私が国立岡山病院で研修医の時、指導医でお世話になった先生で、いわば私の兄貴分です。感染症の専門家で、マイコプラズマやクラミジアという、非定型性肺炎を起こす病原体の、日本ではトップクラスの専門家です。実はこういう病原体は喘息発作にも関連し、10年位前に、共同研究をしたことがありますが、喘息発作の一部はこのような病原体の関与があると考えられています。今回の学会では、気管支喘息のセッションの座長もさせて頂いたのですが、乳幼児にぜいぜいいう気管支炎をおこすRSウイルス(流行始まっています!)に加え、最近検査が可能になったヒトメタニューモウイルスによる肺炎や喘息発作もわかってきて、意外とそちらの方が重症化する、という研究発表もありました。
子どもの外来診療での70%は呼吸器感染です。熱と咳・鼻水があったとき、その子どもの年齢や環境(保育所に行ってるか兄弟がいるかなど)、咳の性状、聴診所見、吸入前後の聴診所見の変化、検査結果など、総合的に診断しなくてはなりません。今年はマイコプラズマの感染も多く、適切な薬の処方が必要です、
ぜいぜいを何回も繰り返しているのに喘息と診断されず喘息治療が適切に行われていない患者さんがいれば、喘息と言われてステロイドの吸入薬をどんどん増やされているのに治らない年長児もいます。小学生以降であれば、呼吸機能や呼気NO(気道過敏性)の検査で、喘息かどうかの判別は比較的簡単です。呼吸機能もNOも調べられず、結局は喘息ではなく耳鼻科疾患だったり、胃食道逆流だったり、そのほかの外科的疾患だったりした患者さんも多いのです。小児アレルギーの専門医であれば鑑別をするのは常識なのですが、なかなか呼吸機能に関する検査は一般小児科では普及していません。
子どもたちが秋から冬にかけてかぜをひいたとしても、呼吸の苦しい状態なく、元気で過ごしてほしいと思います。
何が悪いのか考えよう
9月になって急に気候が変わり、台風が来たり朝夕寒くなったり、涼しい日が増えて来ました。毎年のことですが喘息の発作が増え、乾燥が進んで皮膚のかゆみや湿疹が悪化したアトピーの子どもたちも増えて来ました。
 気管支喘息もアトピー性皮膚炎も、アレルギー体質がからむ慢性疾患です。いずれも診断基準があり、症状の程度によって治療のやり方を指示したガイドラインもあります。治療すればもちろんよくなるのですが、よくなっても、何が症状を悪化させるのかということを理解してそれを除く工夫をしないと、また悪化する、ということを繰り返します。
 薬を塗ってよくなるけれど(当たり前だ!)、また繰り返すので、と受診されるアトピー性皮膚炎の患者さんが多くおられます。よく聞くと、薬はもらうけど、原因や悪化因子について検索がされていないし、アドバイスもないのですね。塗ったらよくなるけどまた悪化する、繰り返すのは当然。
 私はもともと小児科医で皮膚科のトレーニングを受けていませんが、アトピー性皮膚炎が、どういう悪化因子で症状がどう変わっていくかは、たくさんの患者さんがその皮膚で教えてくれました。基本は乾燥肌があって、皮膚のバリア機能が低下して湿疹ができるのです。ですから皮膚の保湿は年中かかせません。ただ、夏に比べて秋から冬は乾燥が進むので、保湿ローションではキープできないお子さんがたくさんいます。お母さん方は、化粧品を買うときに、夏はさっぱりローション、冬はしっとりローションとか言われて季節で変えているでしょう?医者がずっと同じ保湿剤で皮膚も見ずに年中同じものを出すのをおかしいと思ってくださいね。保湿剤はなんでもいいのだけれど、とにかくしっとりした皮膚を保つのには工夫が必要です。
 この時期になると乾燥に加えて、運動会の練習などで保育園や幼稚園の子どもたちは足ががさがさになり湿疹が増えて掻いたりします。運動場でむき出しの足で汗や泥や乾燥で刺激が増えるのですね。そういう意味では、子どもたちの生活をよく知っている小児科医の方が、悪化因子を想像できるという点では皮膚科の先生より有利かもしれません。でも、子どもたちの生活を一番理解しているのはお母さんたちです。あれ、なぜ今日はかゆいのかしら、どうしてこんなところにぶつぶつがあるのかしら、今日は暑かったから汗ばんで首がかゆいのかしら、等々。考えていただければきっと皮膚の改善につながる工夫につながるでしょう。

