食べられないのか食べないのか

毎年3月4月は患者さんが多く集中し、長らくお待たせしたり、受診したくても受付の枠に入れなかったという患者さんの苦情もあります。なぜか、という話は、去年のこのひとりごとの2月、3月の欄で分析・解説していますのでちょっとページをめくって亀崎の言い訳を聞いてください。そういうわけでまた今年も忙しい時期になっています。今年はプライベートでお休みをこの時期多く取ってしまいました。私も一応母親なので、子どもの卒業式も試験もあるのですよー。すみません。
さて、この時期になると、1年ぶりとか3年ぶりの受診とか、ときどきそういう患者さんもいらっしゃいます。カルテを見ると、1年前に検査をして、値がよくなっているから、卵を少しずつ食べてね、と詳しく食べ方を説明しています。で、卵、どのくらい進んでますか?と聞くと、全然食べてないのです。いやあ食べてくれなくて、とか、嫌いらしくて食べないんです、というお話が多いです。そして、また除去食の意見書・診断書だけが必要で来ました、というわけ。食べて実際に蕁麻疹が出るとかアレルギーの症状が出れば、それは仕方がないのですが、経口免疫療法といって、食物アレルギーのあったお子さんは、ある時期になったら少しずつ食べていって慣れていくしかないのです。最近はお母さんも仕事をしている場合が多くて、アレルギーがおこるかもしれない食品を週に3回、少しずつ増やして食べていく、というやり方を指導しているのですが、忙しくて仕事から帰っていろんな家事・育児があるのに、アレルギー食品を食べさせて2時間様子を見る、なんて悠長なことはできないお母さんもいます。でも、食物アレルギーを治すには、「少しずつ食べて慣らしていく」しかないのです。
確かに、小さいころ食べて強いアレルギー症状、アナフィラキシーを起こしたことがあると、それがトラウマで、怖くて食べさせられない、というお母さんもいて、その気持ちはわかります。でも私のように数多く重症の食物アレルギーのお子さんの経過を見ていると、赤ちゃんの時、卵や乳や小麦でアナフィラキシーをおこしたことがあっても、2歳3歳で普通に食べられるようになる子はいくらでもいます。食べなれていないとよく火を通した卵料理はぱさぱさでおいしくないし、本人も昔の症状を覚えていて、無理して食べたくないし。それは食べられないのではなく食べない、ということです。ちょっと口がかゆい、というくらいであれば、増やさず同じ量で続けていると症状が消えます。それからまた増やしていきます。安全な食べさせ方、具体的な調理法や増やし方を時間をかけて詳しく話している(だから待ち時間が長いのね)のですから、どうぞご家族の皆さん、がんばって食べるものを増やしていってください。
それがどうしてもできないのであれば、それはそれで、一生卵は食べない、という選択もいいと思います。宗教上の理由で、豚肉や牛肉など、特定の食品を食べない、という人びともいるのですから。でもこの日本で、いろんな多彩な外食やコンビニ食料のあふれた時代に食べられないものがあるって、将来大変かもしれません。

熱型表を利用しよう!

インフルエンザの流行もやっとピークを越えたようです。そのほかにも、マイコプラズマや溶連菌感染も流行っており、熱のある患者さんを診察して、早く的確に診断することが私ども小児科医に求められています。
その時に役に立つのが熱型表です。体温を1日3~4回測ってグラフにして記録していただくと、いろんなことがわかります。よく、何日の何時に38.6度、とか書いた記録をいただくのですが、それを時系列にしてグラフにするのです。
「熱があって・・」とお母さんたちはよくおっしゃるのですが、それが37度台なのか39度台なのか、どのくらい続いているのか、あるいは朝は下がるが夜になると高くなるという熱なのか。病気によって熱の出方、続き方が違うし、また治療がうまくいっているかどうかも判断ができます。
たとえば小さい子によくある突発性発疹症ですが、これはいきなり39度を超える熱が出て、上がり下がりなしにずっとまる三日続きます。そして三日目にすとんと熱が下がってそのあと全身に発疹が出て診断がつくのです。熱が高いわりにほかに症状がなくわりと元気で、診察所見に異常がない赤ちゃんであれば、これを疑って三日までは様子を見ます。かえって熱が下がって発疹があるときのほうが機嫌が悪かったりしますが、発疹が出ればひと安心、というわけです。
インフルエンザも、高い熱が続きます。タミフルやリレンザなど抗インフルエンザ薬が効くと、二日から三日で熱が下がってきます。二日間平熱になるとひと安心。でも、中耳炎や肺炎など合併症があると、熱が下がりにくかったりいったん下がったのにまた上がってきたりします。数年前流行った新型インフルエンザは肺炎の合併症が多くて、何人も入院が必要になりましたが、今年のインフルエンザは、わりと軽症で元気な子どもが多かったようです。
マイコプラズマは咳がしつこいのが特徴で、1か月も続いたりします。熱も、高熱ではないのですが上がり下がりしながら1週間くらい続きます。マイコプラズマ感染には、マクロライド系の抗生剤が効くのですがこの数年、耐性菌が増えています。約30%までに増えているということです。耐性菌でなければ、薬を開始して48時間以内に、80%が解熱します。なので、二日後に熱型表をもってきてもらって判断し、効いていなければ薬を変えるのです。それなら初めから2番目の薬を使えばいいではないかと思われるかもしれませんが、そうすると2番手の薬までが耐性になってしまうので、そういう使い方は推奨されないのです。
熱型表はいつも家庭に常備しておいて、熱が出始めたらつけて、それをもって小児科を受診されるといいと思います。医者の方もとっても助かります!

アトピー性皮膚炎の最近の考え方

医学の世界は、年々進歩があります。10年前は治療法がなかった病気に新しい治療ができたり、病気の原因がわかったり、病気がなぜ起こるか、どう進行するかにかかわる基礎的な研究が進んだり。なので、医者はいつも勉強して新しい知識を取り込まないと、患者さんのためになる治療ができません。しかし、開業すると、医者は自分ひとりですから、勉強をさぼっていればどんどん最新治療から取り残されるのです。
10年前まで、赤ちゃんのアトピー性皮膚炎は、「乳児湿疹」という錦の御旗のもとに、放っておけば治る、ステロイドなんて使わない、1年くらいしたら自然に治る、と放置されていたのです。最近わかってきたことは、「皮膚バリア機能の低下」が湿疹やアトピー性皮膚炎の原因になるということです。さらに皮膚バリアが低下すると、いろんな物質が入ってくるので、「皮膚感作」といって、皮膚から侵入したアレルゲンでアレルギー反応がおこるということも注目されています。
赤ちゃんはもともと皮膚が薄くてもろいため、皮膚バリアが破たんしやすいのです。湿疹やじくじくがあれば早く治さないとどんどん広がり、そのうち食物アレルギーが進んでくる、ということが分かり、ステロイドも含め、早期に湿疹を治すことが大切なのです。放っておけば悪化して、湿疹は慢性化するとごわごわした皮膚になっていくし、何より皮膚のかゆみや不愉快さで赤ちゃんは眠りも浅いしいらいらして、健やかな発達が阻害されます。機嫌の悪い赤ちゃんに付き合うお母さんの苦労も大変なものです。昔は、卵アレルギーのせいでアトピー性皮膚炎がおこるとされて我々小児科医は食物制限をたくさんやっていましたが、今は逆で、アトピー性皮膚炎があるから食物アレルギーがどんどん進む、と考えられてきました。
最近来院された5か月の赤ちゃんです。2か月から顔の湿疹がよくならず皮膚科に行ったがワセリンのみでよくならず広がってきて、4か月健診でちゃんと治したほうがいいよと言われてある小児科に行った、すると、乳児にステロイドは使わない、放っておいてもよくなる乳児湿疹だから、ときっぱりいわれ、なんの検査もせず、離乳食で卵・乳・小麦を除去するようにと指示されたそうです。10年前なら普通だったかもしれませんが、アレルギーの治療が進んでいる昨今、それはないだろう?
食物アレルギーの研究も進んでいて、何でもかんでも除去することが最近の食物アレルギーを増やしているのではないかと反省期に入っていて、むしろ離乳食ではなんでも食べさせて、症状が出たものだけ除去しようというのが最近の我々アレルギー専門小児科医のスタンスです。この赤ちゃんも、弱いステロイドをしっかり1週間塗ったら皮膚はきれいになってぐっすり眠るようになり機嫌もよくなりました。検査ではTARCというアトピー性皮膚炎の検査値が上がっており、乳児湿疹ではなくアトピー性皮膚炎であることが証明されましたし、卵白に少し反応がありましたが、乳と小麦のアレルギーはありませんでした。
もちろんアレルギー専門医でなくても学会や研究会で新しい考え方を勉強して、ちゃんとステロイド外用で治療してくれる開業の小児科の先生も増えてきました。勉強しているかどうかが、治療法を聞くだけでよくわかります。患者さん方も医者を選ぶ知恵が必要です。2週間くらいやっても皮膚症状がよくならないとき、検査もせずにいろんな食物制限をいわれるときには、ちょっとおかしいなと思ってください。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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