吸入方法の落とし穴

喘息の治療では、吸入療法が重要です。喘息の病気の部位は気管支なので、吸入療法は、薬を吸って気管支に直接効かせる効率のいい方法なのです。ただし、正しい吸入方法で、ちゃんと薬が気管支に入っていないとうまく効きません。正しい吸入のやり方を患者さんに指導してできているか確認するのも専門医の仕事です。
吸入の中でも、ジェット式ネブライザーを使って液体の吸入ステロイドを霧状にして吸うと、普通の呼吸をしていても気管支に入るので炎症を抑え、乳幼児の喘息発作予防によく効きます。予防の薬なので、毎日続けなければなりません。しかし、この吸入を毎日していても発作が減らない、という患者さんがときどきお見えになります。もちろん、これが効かないくらいすごーく重症な患者さんもまれにいますが、まず、吸入のやり方がよくないのではないか、と疑うほうが先なのです。
ひと昔前は、まず吸入器がぜんぜん別物、ということがありました。液体を霧状にして口から吸うのを吸入というので、時々、のどをしめらせるような耳鼻科用の吸入器(値段も安価で、電器屋さんでも買える)を自分で買ってしまう患者さんがいました。喘息用の吸入器は、霧を細かい粒にするので気管支まで到達するのですが、このような吸入器では粒が大きいので全部のどについてしまい、薬は効きません。二つ目は、吸入器の出口、マウスピースを口元において、霧をただよわせている場合です。これではほとんど薬が入っていません。マウスピースは筒状になっていて、これをくわえてゆっくり呼吸することで、薬が気管支に入ります。小学生以上になるとできますが、乳幼児では無理なので、マスクで口と鼻をおおって呼吸してもらうことになります。三つ目は「時間指定吸入」です。薬は、1~2mlの液体で、ジェットネブライザーで霧にすると、吸入器にもよりますが、全部終わるのに10分以上かかります。赤ちゃんや小さい子は長時間じっとしていることが難しく、泣いたりぐずったりやめて遊んだりします。それをいろいろ工夫して、親がしっかり意志を持って続けると、そのうち子どもは慣れて上手に吸入を続けることができます。その指導も実はコツがあります。時間がかかって無理、というので吸入時間を5分とか指定する先生がときどきいますが、液が残っていれば、薬はそれだけ残っているわけですので、霧が出なくなるまで吸入するのが基本です。さらに、最近来られた患者さんで、ステロイドの吸入液とインタールという抗アレルギー剤の吸入を混ぜてやるように指示されていた患者さんがいました。どちらも抗炎症作用のある予防薬ですが、どちらかを選択するのが普通で、ステロイドが普及してからは、作用の弱いインタールは予防薬としてはあまり使われなくなりました。配合変化というのもあって、混ぜて使ってよいというデータもありません。混ぜてしかも時間指定でやめていましたので、せっかくのステロイドは1/6も入っていないと考えられました。
吸入療法はちゃんとしたやりかたで気長に続けましょう。どうしてもできなければ、時間のかからない加圧噴霧式定量吸入器もあります。でもこれも吸入補助具が必要なので、しっかり習ってくださいね。

12月の講演

12月はおもしろい会に呼ばれました。一つは、キャンプ協会・青少年事業団主催の野外活動指導者のためのリスクマネジメントセミナーです。12月7日にその会で、食物アレルギーや喘息など、キャンプ活動中での注意と対策の講演をしてきました。子どもたちにとって、キャンプは自然のなかで自分の肉体を使って新たな体験をし、また仲間たちとすごす楽しい時間です。でも、アレルギーの子どもたちは増えているので、キャンプを主催する施設や機構の運営者や、リーダーと呼ばれる指導者たちはすごく気を使っています。少年自然の家の管理栄養士さんは、なんとなく除去、みたいないいかげんなものからアナフィラキシー既往者の除去まで、対応して除去食の食事を工夫してくれていますし、魚つかみのキャンプに参加した魚アレルギーの子どもへの対応の報告など、皆さんとても熱心で真摯なので驚きました。100人くらいの聴衆もとても熱心に研修されていて、子どもたちの味方がここにもいた、と心強く感じました。
もう一つは、13日に京都であった日本子ども健康科学学会という学会です。医師だけでなく、子どもをとりまくいろんな職種が、子どもの健康についていろんな問題を勉強しようという会なのですが、私は初めて参加しました。実は特別企画「子どもの健康と‘ソーシャル・デザイン‘アプローチ」という中でシンポジストをしたのです。昨年まで、喘息の子どもたちの家庭のダニアレルゲンを測定し、掃除の指導介入をすると1年後子どもたちのダニIgERASTも下がるのではないか、というテーマでダスキンと共同研究をしていて、医療と企業との連携ということでダスキンの共同研究者と一緒にお話しました。医者は私一人で、もともと企画したのが電通の社員で健康情報学を研究しているコミュニケーションデザイナーの男性。あとは、日本初のクラウドファンディング会社をたちあげ、今までネットで9億円を集めたという若い女性と、アサヒグループでCSRといって企業が社会に貢献しますという部門の女性。いわゆる業界が違うってやつで、日頃診療ばかりしているとお会いしないお仕事の方ばかり。とびかう言葉もちんぷんかんぷんでしたが、ソーシャルデザインというのは、同じ目的をもった立場の違う人たちが共同していい社会をつくろうよってことかな?それをこどもの健康を守ることにいかせないかという超画期的な企画でした。新しいことに出会うととまどいますが、でも面白かったです。
師走に入って寒波が続き、一気に冬になりました。気温が下がるにつれて病気も増え、先々週から、インフルエンザもRSウイルスも急増し、高熱が続く患者さんの中に、溶連菌もアデノウイルスもあったりします。うがい、手洗い、十分な睡眠が大切ですよ。皆様お元気で師走をお過ごしください。

学校の講演

だんだん寒くなってきました。かぜひきさんも増えてきましたが、まだインフルエンザもぱらぱらで、流行までにはいたっていません。
先日、伊丹市立有岡小学校にお招きいただき、子どもの食物アレルギーについて講演をさせていただきました。その日は、「こころとからだ」というテーマで、子どもたちが各学年、自分たちの身体と精神について勉強し、考える、という学校ぐるみの取り組みをしていて、放課後に、先生方や希望の保護者の方対象にアレルギーの講演を、ということだったのです。最後は、エピペンのトレーナーを使ってエピペン講習会もしました。先生方も保護者の方も皆熱心に聞いてくださいました。
ふつう、学校に呼ばれて話をする、というのは、重症の食物アレルギーの児童がいて、除去食だのエピペンの使いかただの、急に先生たちにいろんな知識や情報が必要になって、あわててなんとかしなくちゃ、という形のお誘いが多いのです。でも、この有岡小学校ではまだエピペンを持ってきている児童はなく、ひどい食物アレルギーの症状をおこした事例もないとのことでした。でも、食物アレルギーの子どもは増えているし、ちゃんと前もって勉強しておこう、という校長先生のお話でした。
リスクマネジメントといいますが、前もって、起こりうるいろんな事態に対して、備えておこう、というのは大事なことです。地震や津波の際にどう身を守るか、どう逃げるか、不審な侵入者に対してどう子どもたちを守るか、突然心臓の止まった子にどうAEDを使うか。誤食でアナフィラキシーを起こした子にどうエピペンを使うかも、あらたな学校での課題だと思います。興味と問題意識を持ち、学んでくれる先生方が少しずつでも増えてくれれば、アレルギーの子どもたちの大きな味方となるでしょう。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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