食べれば寛容、皮膚からはアレルギー(2)

前回のピーナツアレルギーの続きです。
そこで、ラック先生たちのグループは大掛かりな臨床研究をしました。2015年の2月に一流の医学雑誌に発表されて、なかなかショッキングでした。
4か月から11か月までの乳児で、すでに卵アレルギーがあるか、ひどい湿疹があるか、あるいは両方あるか、という、つまりアレルギー体質を強く疑う乳児を640人集めたのです。そして二つのグループに分けて、ピーナツを完全に食べないように除去する群と、逆にピーナツの入った食品を、一定の量以上離乳食に与える群としました。そしてそれを5年間続け、最後にピーナツを実際に食べさせる負荷試験をして、ピーナツアレルギーを診断したのです。そうすると、ピーナツを除去していた群では16.8%がピーナツアレルギーになったのに、ピーナツを食べていた群では4.7%のピーナツアレルギーの発症で、食べていた方がピーナツアレルギーを起こしにくかったのです。つまり、食べていると免疫寛容といって、体が受け入れる仕組みがいろいろ働いて食物アレルギーを予防するのではないかという仮説を実証したのでした。
長い間小児科医は、卵アレルギーがあるからアトピー性皮膚炎になるのだ、と卵などの食物制限をしてきたのですが、今や完全に見直しの時期に入っています。アトピー性皮膚炎があるから、卵のアレルギー値が増えるので、だからと言って実際に卵を食べてアレルギー反応を起こすとは限らない、ということらしいのです。早くから乳児の湿疹を治療して、離乳食でいろんなものを早く食べさせるようにしていけば、現在増加している食物アレルギーもへっていくのでは、と期待されています。
さて、暑い暑い毎日です。子どもたちも夏休みに入りました。暑さに負けず、楽しい休暇を送って下さいね。お父さん、お母さん、大変ですが頑張ってください。子どもはあっというまに大きくなって、あんなに大変ででも楽しかった夏の海水浴やプールや水族館や旅行が、いつのまにかなくなってしまいます。大変だーくたびれた―といいながら子どもたちと汗だくになる日々を今のうちに楽しんでください!

食べれば寛容、皮膚からはアレルギー(1)

アレルギーの病気は、もともとアレルギーを起こしやすい体質があって、それにアレルギーを起こす物質(アレルゲン)が体内に入ってきて病気が起こるとされています。アレルギーの体質とは、アレルゲンに対しIgEという抗体を作りやすいことで、これは遺伝的に決まっています。でも遺伝因子があっても、アレルゲンを身の回りからなくす、アレルゲンが体内に入らないようにすれば、IgEは作りにくいし、アレルギー反応も起きないのです。
ですから、花粉症の人はアレルゲンである花粉を体内に入れないようにマスクやメガネをする、ダニアレルギーのある喘息の人は、掃除をして身の回りのダニを減らして発作が起こらないようにする、というのが基本です。では食物アレルギーは?当然アレルゲンである食品を食べないようにしてIgEを作らないようにする、またアレルギー症状が起こらないようにする、というのが基本です。しかし最近、食物アレルゲンは食べる事だけが問題ではないという科学的証拠が増えて来ました。
アメリカではピーナツアレルギーが多く、ピーナツを食べて起こるアナフィラキシーも多いのです。そこで、ピーナツアレルギーを予防するために、アレルギー家系で母が妊娠したら、母乳をあげる母も生まれてきた赤ちゃんも一切ピーナツを摂取しないようにしたのです。しかし、結果は、母も子もピーナツを食べていない場合でも子どものピーナツアレルギーは発症し、よく調べると、家族のピーナツ摂取が多いほど多かったのです。また、ピーナツオイルを使ってベビーマッサージをした赤ちゃんの中から多くピーナツアレルギーが発症したこともわかりました。それから、遺伝子背景が同じユダヤ民族でも、アメリカではピーナツアレルギーが多く、離乳食で初めからピーナツを与えるイスラエルではピーナツアレルギー患者が少ないことも報告されました。
どうやらピーナツは、皮膚から入ってIgE抗体を作りピーナツアレルギーとなるが、口から食べていると逆にアレルギーになりにくいという事らしいのです。もともと食物が消化管から入ると、消化機能や免疫機能が働いて免疫寛容といってアレルギーを起こさず受け入れる、ということが分かっていました。
そこで、食物アレルゲンは、口から入ると経口免疫寛容となるが、皮膚から入るとIgEを作ってアレルギーになるのではないか、という仮説が10年ほど前にイギリスのギデオン・ラックという先生から出されたのです。これは、最近のアレルギー関連のトピックスのひとつでした。(以下来月に続く)

患者さんの訴えは正しい

日本アレルギー学会は、年に一度(去年までは年に2回でしたが)いろんなアレルギーの研究や最新知見や症例が報告されるアレルギーの専門学会の集会をしています。今年は5月26日から28日、火、水、木の日程で行われました。平日に三日も休むのは、開業医では患者さんのご迷惑になるので、今年は水、木の二日間休診にして学会に行ってきました。アレルギーと一口に言っても、いろんな分野、いろんな病気、いろんな研究があるので、日々勉強しないと専門医といえども、追いつけないのです。
今回猛烈に反省し、感じたのは、患者さんの訴えは正しく、ちゃんと耳を傾け、調べないといけないということです。
つい最近ですが、風邪で葛根湯という漢方の薬を飲んでいると、アレルギー症状が起きにくいんですよ、とおっしゃった患者さんがいらっしゃいました。私は漢方薬の勉強をしていないし科学的証拠を知らないので、いやあそんなことはないでしょう、と言ったのですが、今回学会に行くと、ポスター発表で、葛根湯のプエラリンという成分が、大腸粘膜で制御性T細胞というリンパ球を増やして食物アレルギーを抑える、という富山大学の実験データがあって、あれ、実証されてる!と思いました。
また、鶏卵のアレルギーが昔あったけど今食べてる、という小学生のお母さんが、給食のウズラ卵1個で口がかゆいというんです、というので、いや、鶏卵が食べられるのにそれは気のせいでしょう、と言いました。鳥類の卵はアレルギーの起こしかたはみな同じ、と習っていたからです。しかし今回やはりポスター発表で、鶏卵にはなくウズラ卵にある成分が、嘔吐・下痢を起こした患者さんから証明されたというのを見つけました。
それから、年長児に、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーという病気があります。食事をしたあとに運動すると、じんましんや呼吸困難が起きるのです。小麦や甲殻類の摂取でおこることが多く、検査で証明されればいいのですが、最近、今までまったく食物アレルギーなどなかった中学生で突然原因不明のこの病気が起こる症例が増えています。検査で出ればいいのですが、調べても何も出ません。これも、ポスター発表で、何回か起こすと食事の中のある食品があやしいということになり、入院して怪しい食品を食べて運動する、という大変な検査をしています。そうすると、カレー粉の中のセリ科のスパイスとか、今まで食べていた肉類だとか、思わぬものが原因であったことが証明されていました。
最近いろんな変わったアレルギーの病気が増えているのです。珍しいので、すごく興味をもった医師がいろいろ試行錯誤して何かを証明して報告するのが学会です。私も、昔済生会中津病院にいたころのように、専門病院で入院設備もあり、時間的拘束がなければ、いろいろ調べたり問い合わせたり特殊な検査をしたりして、そういう稀な難しい病態に迫ることができましたが、開業して、週に六日間ずっと外来の仕事をしていると、調べたりいろんな知識を取り入れる余裕もありません。学会は、そういう自分にカツを入れる場であり、いろんな新しい研究内容を聞いて、とてもエキサイティングでした。
休診はご迷惑をおかけしますが、日々の診療でこれを患者さんに還元していきたいと思います。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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