今月の独り言
皮膚をよくして食べて卵アレルギーを予防する
今年の夏はあっという間に過ぎて、気がついたら八月が終わっていました。
開業11年目にして初めて1週間の夏休みをもらいました。海老島先生が来てくれたので余裕ができたのです。あれもしようこれもしたいと思いながらなにもできずに終わってしまいましたが。去年地震で被災した熊本の実家はとうとう取り壊しになり、ちょっとつらい夏でもありました。
さて、最近小児アレルギー学会から、鶏卵アレルギー予防に関する提言、というのが出されました。乳児のアトピー性皮膚炎では、かなりの率で卵アレルギーが発症します。実際に食べてアレルギー反応が出れば卵アレルギーなのですが、血液検査で卵のIgE値がちょっと上がっているだけでも、食べたらアレルギー反応が出るかもしれないから、やめておきましょうというのが20年来の考え方でした。しかし最近わかってきたことは、皮膚状態が悪いとバリア機能が低下して、経皮感作といって、皮膚からアレルゲンが入ってIgE抗体を作るということです。そしてそれが本当に食べてアレルギー反応をおこすかはまた別だということです。
最近日本から出た研究が世界的な雑誌に載りました。生後4-5ヶ月でアトピー性皮膚炎のあった乳児を、皮膚の治療をしながら、60人には生後6か月から毎日、微量の加熱卵を与える。別の61人は卵を与えない。そして1歳になったところで卵半分の負荷試験をすると、卵をずっと与えていた群では8%の子が卵アレルギーだったのですが。食べさせていなかった群では38%が卵アレルギーでした。つまり、食べさせたほうが卵アレルギーは予防できる、という結果だったのです。
これを受けて学会は、「乳児期のアトピー性皮膚炎のある子は」「皮膚の治療をしてよくなってから」「6か月から少量の加熱卵(ゆで卵白0.2gくらいだそうです)を毎日」「与えることで卵アレルギーを予防できる」という提言を出したのです。もちろん卵を与えて症状が出た子は対象になりません。
しかし実際にこういう指導が一般小児科で責任もってやれるかどうかというのが心配されていて、どうなっていくのか、次回の学会で論議になりそうです。
感作イコールアレルギーではない!という話
アレルギーの病気は、IgEというたんぱく質がカギを握っています。何かが体のなかに入ってくると、アレルギー体質のひとは、敏感にそれを感じて、それに対抗する抗体という物質を作ります。普通の、細菌やウイルスに対抗する抗体はIgGやIgMといって体を守るほうに働きますが、アレルギーの抗体はIgEといって、食べ物やほこりや花粉など、身近なものに作るので、それによってかゆみや鼻炎やぜんそくが出るので困りものです。
IgE を作って持っていることを「感作されている」といいますが、アレルギーの病気の難しいところは、感作されているからと言って病気とは限らないことです。花粉に感作されていても鼻炎の症状がないひともいますし、多いのは、食物に感作されていても別に食べても症状がない、つまりそれの食物アレルギーとは限らないのです。
食物アレルギーの考え方は、この10年でずいぶん変わりました。昔は、アトピー性皮膚炎の患者さんがある食物に感作されていると、その食物アレルギーだということで食物除去をしていました。でも最近わかってきたのは、食べていないと本当に食べて症状の出る食物アレルギーになっていく、食べさせたほうが食物アレルギーは発症しない、またアトピー性皮膚炎は食物のせいでおこるのではなく、皮膚に湿疹が続いてバリア機能が悪いために皮膚からいろんなものの感作が起こる、ということです。世界中でそういうデータがつみかさねられてきました。専門医は、関連の学会や研究会に参加していると、そういう話を聞きますから論文を読んで勉強して、自分の診療も変えていかねばなりません。
最近初診の患者さんで、食べていた卵を、感作されているからといって除去するように医師に指示され、何年も完全除去をしてきた子がいました。脱ステロイドといって湿疹を治す治療はいっこもしない皮膚科でわずかに感作されているからと5歳にもなるのに卵と小麦の完全除去を指導されている子もきました。
赤ちゃんのときに本当の食物アレルギーで症状があっても、成長とともに治っていくことがほとんどです。私たちアレルギー専門医の仕事は、本当になおりにくい食物アレルギーの患者さんに、負荷試験をして、安全に食べられるような食べ方の指導をすることです。
お願いだから、食物アレルギーでもないのに、食物除去を安易に指示しないでほしいなあ!安易な「やめておきましょう」を言うのは簡単だけど、あとで大変なのは患者さんと家族なんですから。食べられるようになるまでちゃんと責任もって指導してほしい、なんていっても無理か。
今の最新の治療は、「さっさと皮膚をつるつるにして、なんでも早くから食べる!」なのです。アレルギー科と看板がかかっていても、専門医でないことが多いですから、治療や指導に疑問があったらよくその先生に質問してくださいね。
夏風邪に負けるな!
梅雨空がすっきりしません。季節はもう夏です。
小児科の外来は、この1か月夏風邪が増えています。特に手足口病が多いです。今年の手足口病は手のひら足の裏だけでなく、うでにもふとももにもぶつぶつが広がり、それが茶色いかさぶたになってなかなか派手な病気です。これは数年前からですが、手足口病もウイルスが進化(?)しているのかも。
夏風邪は、ウイルスによる流行性感冒ですが、ウイルスの種類によって症状が異なり、名前がいろいろです。のどだけ真っ赤でぶつぶつがあって高熱が出るのはヘルパンギーナ。そうかと思っていると手足に水ぶくれのようなぶつぶつが増えると手足口病。熱に加えて目が真っ赤になって結膜炎をおこすものはプールで感染することからプール熱。昔からの病名ですが、原因ウイルスがはっきりすれば、なんとかウイルス感染症といったほうがいいかもしれません。
夏のウイルスは、高熱を起こすものが多いです。39-40℃が少なくとも1~3日。アデノウイルスでは5日から1週間続きます。朝は下がって夜に上がる、というぎざぎざの熱型になることが多いです。熱はしんどいですが、ほかに症状がなく、子どもは比較的元気です。我々小児科医は、症状が続くと、必ず、合併症はないか、ほかに悪い病気ではないかと考え、診察をし、いろんな検査をしますが、ほんとにしつこい夏風邪は、熱だけで1週間続いたりします。大丈夫だと思っていても何か見落としはないかと心配で、気をつけることをお母さんにお話しして、こういう症状があればまた来てね、こうなったら夜でも救急に行ってね、と言います。ウイルス感染は時々、突然悪化する心筋炎、脳炎など合併症があるので油断がならないのです。
熱が数日続いても、食欲があって、遊んでいて、眠れていれば大丈夫。熱の記録をつけて、3日以上続くか、心配な症状があれば受診してくださいね。