経口免疫療法は慎重に

食物アレルギーは乳児期に多くて、成長とともに食べられるようになることがほとんどですが、当クリニックのように専門にしていると、重症の患者さんがたくさんいます。2-3歳になっても検査値が高いとか、ちょっと食べても症状が出る患者さんは、計画的に少しずつアレルゲン食品を摂っていく「経口免疫療法」という治療をします。いまのところ、重症食物アレルギーを治すにはこの方法しかないのですが、ちょっと間違うとアナフィラキシーになることもあるので慎重にしなければなりません。最近ちょっと思い違いをして失敗をした患者さんが続きました。
1)小麦アレルギーが強い3歳。ゆでうどんの負荷試験をして、うどん1cmから、週3回食べて少しずつふやしていったのですが、7cmをこえると咳がでるので、7cmで維持していました。ちなみに週2~3回は食べ続けないと、間があくと症状が出ることがあります。忙しくて忘れていて食べるのが三日あいているのに気付いたお母さんが、うどん屋さんに入って5cmのうどんを食べさせたらいきなりアレルギー症状が出ました。実はそこのうどんは乾麺で、いつも食べているゆでうどんより小麦タンパク量が多かったのです。いつも同じもので継続しないといけません。
2)乳のアレルギーのきつい患者さんには超熟というマーガリンしか入っていない食パンから開始します。1枚食べても乳タンパク2.2mgなのです。乳タンパク量を測定した食品表があって、それを見ながら少しずつ乳タンパク量を増やしていきます。お菓子などで130mgくらいまでやっと乳タンパク量が増えた3歳のお子さん、何を思ったかお母さんが牛乳30ml入ったパンケーキを子供に食べさせてアナフィラキシーになりました。実は普通の牛乳のタンパク量は3.6%なので、1mlの牛乳では約36mgの乳タンパク量になります。いきなり1080mgの乳タンパクが入ったのですね。お母さんの勘違い。あせらないでね。
3)卵は、加熱の具合で食べられるか食べられないかが大きく影響されます。はじめは卵の少し入ったスナックパンやクッキーなどを少しずつ増やしていくのですが、これらのものは200℃でよく火が通っています。揚げ物も、ころもに卵を使いますが、200℃で揚げてあるので大丈夫。しかし、ハムやソーセージなどの食肉加工品は、よく卵白が入っているのですが、蒸したりいぶしたりして作るので、火の通りが悪いのです。ロースハムって普通そのまま食べますが、念のために最初はフライパンで焼いてね、1/8枚から8回にわけて少しずつ増やして1枚にしてね、とお話ししています。先日5歳のお子さん、ロースハムを初めは1/4枚焼いて食べてどうもなく、2回目をお母さんが1/2枚、それもそのまま食べさせてアレルギー症状が出ました。増やす量も多いし、いきなり生で。
このように、アレルゲンの性質を知らないと症状が出ることもある経口免疫療法です。もちろん、適当に食べていってもどんどん倍倍に増やしても、何も起こらない患者さんもいます。それぞれの患者さんに対応した食べ方の計画が大切な治療法なのです。

保育園のこと

4月から保育所に行き始める、という子どもたちの健康診断やアレルギーの意見書を多く書いているこの頃です。なかなか希望の保育所に入れない子どもも多く、「日本、死ね!」という保育所に落ちた母の叫びもよくわかるものがあります。待機児童も問題ですが、劣悪な保育環境はもっと深刻です。姫路の認定子ども園で定員超過の子供を預かっていた件では、何より子どもたちの給食が安全に十分に与えられていなかったというのが一番ショックでした。
私は、結婚13年目にやっと子どもを授かって高齢母となりました。体力は人並み以上にあるし、小児科医ですので生まれた赤ん坊のことであまり心配はないし、とにかく待望の赤ん坊が来て、楽しいうれしいおもしろい、の毎日でした。唯一の問題は、結構専門の仕事(アレルギー専門外来)をしていたので育休をとっても替わりの先生が来るわけでもなく、上司の先生に負担がかかるので、産休だけで復帰することにしました。夫は単身赴任で別居でしたし、実家は遠方で第一もう両親は高齢で孫の世話どころではありません。頼りは保育所だけでした。生後2か月から病院内のデイケアに赤ん坊を預けて復帰。病院の近くにアパートをかりて最初はベビーカー、後になると自転車で子どもをのっけて出勤。昼休みには授乳に行って、夕方仕事が終わると子どもを連れて帰り、「お母さんと一緒」を見たり歌いながら自分のご飯と離乳食を作って日々成長する子どもと過ごす。人生で一番楽しい時期だったなあと思います。
子どもが2歳になる前に京都に引っ越し、家からすぐ近くの公立保育園に通うようになりました。通勤時間が長いので、延長保育の一番に預け、一番最後に迎えに行く生活でしたが、とってもいい、家庭的な保育園で、子どもたちがのびのび育ちました。うちの子が一番滞在時間が長いので、どの先生にもほかのクラスの父兄にも〇〇ちゃん、と可愛がってもらえました。お散歩中に転んでおでこにけがをした時も先生が病院に連れて行って、抜糸も連れて行ってくれました。お誕生会で給食の試食をして、「冬瓜のひすい煮」なんていう手のこんだ季節のものが出てびっくり。息子は好き嫌いが何もなく育ちました。ときどきお迎えにお願いするベビシッターにも恵まれ、家族で可愛がってもらって、おかげで私は仕事を続けることができました。本当に、子どもを育てるのには親だけでなく、周りのみんなの愛情と理解がいるのです。
おかげで息子は今年20歳になります。新たに保育園・幼稚園に行き始めるたくさんの子どもたちが、のびのびと明るく強く成長しますようにと願わずにはいられません。

意見書のシーズンになりました

2月末から3月にかけて、食物アレルギーの患者さんが、次年度の給食を除去食にしてもらうための医者の診断書が必要になって数多く来院されます。保育園や幼稚園の意見書、学校の生活管理指導表です。
食物アレルギーは乳幼児に多く、年齢とともに治っていきます。半年ごとにアレルギー検査で抗体値をチェックし、少しずつ食べていくやりかた(経口免疫療法)をお話して実行してもらうと、だんだん食べられるようになります。ですから保育園の意見書は、数回書いているうちにどんどん食べられるものが増えて、最後に除去食解除と書くことができて、よかったね、ということになります。しかし、重症の患者さんや多品目のアレルギーがある患者さんは時間がかかります。食物負荷試験をしても症状があると、経口免疫療法にもっていけません。また、重症であるほど、少しずつ食品を増やしていくのですが、ときどき途中で症状が出ることがあり、また減らしてから少しずつ、となると食べられるようになるまで時間がかかります。こういう場合は、小学校入学のときも何らかの除去が必要で、学校生活管理指導表の食物アレルギーの欄に詳しい記載が必要になるのです。昔は就学時の食物アレルギーは少なかったのですが、近年増加しており、平成25年度の文科省の調査では児童生徒の4.5%が食物アレルギーでした。
この時期になると、1年ぶり、2年ぶりで受診される小学生・中学生がいます。去年の検査で、これをこんなふうに少しずつ食べてね、とご家族と本人に指導しているのですが、「食べるもの、増えてますか?」と聞くと、「食べてません」との返事が多く、がっかりします。食べさせるのが怖い、本人が食べたがらない、親が忙しくて食べさせる余裕がない、本人が高学年になって習い事があって、などなど理由は色々ですが、食物アレルギーを治すには、少しずつ気長に食べるものを増やしていくしかないのです。今頑張ってやらないと、大人になって食べられないものがいろいろあると大変なのは本人なのになあと思います。
もちろん重症児の経口免疫療法には危険も伴います。でも、何年もかかって食べられるようになった患者さんたちを振り返ると、やはりお母さんが熱心で、2か月ごとに受診され、進行具合を相談し、ときに症状が出てもそれでめげずに食べ続けた、という方たちです。
昨日も、9歳になったRくん、とうとう小麦・卵・乳と3品目の食物アレルギーを克服し、給食が全部食べられるようになりました。9年のお付き合いになるお母さんが、遠方に住んでいるのでアナフィラキシーになったとき近くの病院に理解がなく不安になったこと、通院が大変だったけど、来るたびに私が大丈夫だよ、食べていけるよ、と励ましたのが力になったことなど、涙ぐんでお話してくれました。改めてご家族の不安やつらさに思い至ったことでした。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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