今月の独り言
移行期医療は子どもから大人への橋渡し
最近小児科領域では、「移行期医療」ということが問題になっています。小児科から内科へ、年齢によって担当する科や医者が移行するときの病気の治療をどうするかということです。
小児科は、基本、生まれてから15歳まで、中学生までの子どもを診ることになっています。なぜ大人を診る内科と区別されているかというと、子どもと大人では病気の種類が違うし、同じ病気になっても症状や経過や薬の使い方が全然違うのです。しかし、15歳になったらはい、こちら、という簡単なものではありません。風邪や胃腸炎など、急性の一過性の感染症であれば年齢で分けてもいいでしょうが、小さいころから慢性の病気で大きくなっていく子も増えてきました。
私の専門領域であるアレルギー疾患は遺伝や体質がベースになることが多いので、軽くなることはあっても完全に治ることは難しいことがあります。アトピー性皮膚炎では保湿しないとやっぱり湿疹が出る、とか、喘息も日頃はいいけどマラソン練習で距離が増えると発作が出る、とかがよくあります。
アトピー性皮膚炎は最近では乳児期からしっかりプロアクティブ療法で治療すると、本当によくなります。でも、1~3歳から発症するアトピー性皮膚炎はしっかり塗るのも大変で、保湿も毎日全身にするのも大変です。小学生の低学年くらいまではお母さんが一生懸命塗りますが、10歳ころから中学生になると、親がいくら塗ろうとしても本人が嫌で拒否すればできず、けんかになるばかりでうまくいきません。特に男の子は中学生くらいになるとお母さんに裸で塗ってもらうなんて嫌でしょう。先週も、中学生の男の子と小6の女の子、重症のアトピー性皮膚炎ですが、親の心配をよそに、めんどくさい、とかべたべたするからいやだと言って塗らず、親とケンカ状態で受診しました。なので、医者は、子ども本人と話さないといけないのです。どんな病気なのか、しっかり治療しないと将来どんなに大変か、塗るのは嫌でも最低限ここだけこれだけは塗ろう、という折り合う点を見つけて自分で塗る約束をしました。
気管支喘息も、軽い子は6歳くらいまでによくなって薬をやめることもできるのですが、先日参加した移行期医療の研究会で呼吸器内科の先生の話では、小児喘息で治ったと思っていた群の中で半分くらいは大人になって再発するのだそうです。私も長い間喘息の治療をしていて、6歳になって呼吸機能が正常でないと、薬なしでは再発したり、運動することで発作が起こる、という子が多いことを実感しています。小学生の喘息治療は毎日のステロイド吸入ですが、それも親が言わないとやらない、と親子でケンカしながら受診するし、発作があったかどれだけの症状だったかお母さんがしゃべる横でふてくされている反抗期男子も多いのです。
私どもは、親と話すのでなく、9-10歳以降になれば子ども本人と話して、自分の病気を理解する、治療の必要性を理解する、治療を自主的に自分で行う、というように医療をしていかなければならないのです。なかなか時間もかかり根気のいることですが、意識して子どもから大人になる子どもたちに向き合おうと思います。
ノーサイド
28日(土)に最後の診療を終えて、今年の仕事が無事終わりました。今年は公私にわたっていろいろ大変なこともあったけれど、仕事上では優秀なスタッフの協力に支えられて助けられました。まあ年齢とともに体力はなくなってきていますが、患者さんの子どもたちに(病気を診ているのはこちらですが)励まされて力をもらって続けられているのは幸せなことです。
何か好きなことがあるのもいいことで、今年は9月以来、ワールドカップラグビーにはまっていました。にわかファンでは実はなくて、学生時代のボーイフレンドがラグビー部だったので、実は昔から詳しいのです。松任谷由実の「ノーサイド」という歌は、当時ほんとにその通りの思いをして、さすがユーミンはすごい、と思っていました。
ラグビーという競技の素晴らしいところは、本当にみんなで鍛えあって協力し合って、互いを信頼しあって試合ができるところ、まさにOne Teamです。トライが決まるとその場面だけが何回も放送されますが、そこにいたるいくつものプレイにいろんなヤマがありきっかけがあり、こういう流れがあってトライに至るのだ、というところが好きです。とくに今回の日本代表はものすごく過酷な練習に耐えてきて、すばらしいプレイを見せて日本中を感動させてくれました。世界中で、国や人種や考え方が違ってあちこちで争いがあり分断があり差別や偏見がはびこるこの時代、ラグビーは、外国出身の選手も多いのですが、そんなことは問題でなく、また激しく戦っても、試合が終わると「ノーサイド」で、敵味方なく互いの健闘を称えあう、こういうところがとくに開催国日本で感動を呼んだのではないでしょうか。日本代表の試合はTVでしか見られませんでしたが、アイルランド対サモア戦を博多まで行ってグランドで観戦して、やはり直に見るのはすごい迫力でおもしろかったです。来年は花園にも行ってみようかと思います。
来年もみんなにとって良い年になりますように。
喘息は点でなく線で診る!
喘息は、空気の通り道である気道(気管支)に、炎症がある呼吸器の病気です。慢性の病気で、気道の炎症がありすごく過敏なので、刺激(かぜ、運動、冷たい空気、アレルゲンとの接触など)が加わると気管支が収縮して空気が通りにくくなり、ぜーぜー、ひゅうひゅういいます。ひどくなると呼吸困難になります。気管支に分泌物が増えるので、それを出そうとして痰の絡んだ咳が出ます。これが喘息発作です。発作は、気管支拡張剤を吸ったり飲んだりテープで貼ったりするとそのうちよくなりますが、慢性の病気なので、また刺激が加わると発作になります。3回発作があれば喘息と診断して発作予防の長期管理が必要になります。
専門でないお医者さんに診てもらうと、1回1回の発作の治療はしてくれるのですが、喘息は、点で診ずに線で診ることが大切です。発作と発作は個々に起こっているのでなく水面下にある原因は同じものなのですから。「うちの子は風邪をひかなければ喘息出ないんです」というお母さんが時々いますが、いや、それが喘息ですってば。喘息のない子は風邪をひいてもぜいぜいいわないんです。
喘息の治療で注意することを三つ。専門医でないと知らないかもしれません。
1) 喘息の発作時に、「咳止め」は禁です。アスベリン、メジコンという薬は、小児科でもよく出す咳止めですが、喘息の咳は痰を出そうとしているので、咳を止めると痰がつまるし、呼吸抑制作用もあります。小児の喘息のガイドラインには「発作時には鎮咳剤は禁忌」と書いてありますが、専門医でないと知らないようです。
2) 喘息の発作時にホクナリンテープは、貼ってゆっくり効く気管支拡張剤です。しかし実は喘息でもないのに「咳止め」として出されることが多いです。喘息でなければ貼っても効かないだけで害はないのですが、本当に喘息の患者さんは、後発品の「ツロブテロールテープ」ではなく、「ホクナリンテープ」を使って下さい。後発品の薬は同じものですが、貼ってゆっくり薬が放散されるシステムは後発品にはありませんので、血中濃度がすぐ上がってすぐ下がってしまいます。持続効果がなく、ほかの気管支拡張剤とかぶると副作用が出ることがあります。
3) 吸入していますが咳がとまりません、という初診の患者さんが来ます。よく確認すると吸入の仕方が正しくないことがほとんどです。液体の薬をネブライザーで霧にして吸う吸入は、乳幼児ではマスクを顔にあてて、下をむかない姿勢でやります。初めてではなかなか難しいです。マスクを嫌がるので顔から離すと、薬は体に入らず、ただよっており、効果はありません。プシュッと出す定量噴霧式の吸入薬も、大人はくわえて吸いますが、子どもは無理です。スペーサーという道具が必要です。いずれも医療者による吸入指導が必要です。吸入は、正しくやらないと効きません。
喘息治療にはいろいろコツがあります。治療がうまくいかないときには相談してください。