医者が患者の立場になると

今年の診療も無事終わりました。

最後の1週間は、大丈夫かな、よくなるかな、お正月元気で迎えられるかな、と案じていた喘息の発作の子、熱の続いていた子、咳のひどかった子たちがたくさん受診されました。でも何とか皆快方に向かって、ほっとしました。

私はもともと丈夫なほうで、大きな病気をしたことがありません。お産以外で入院したことがないし、医者になってから、自分の病気で仕事を休んだことがありません。インフルエンザワクチンがなかったころから、インフルエンザにかかったこともないし、あほみたいに頑丈だと言われてました。なので、病気やけがで、どこのお医者にかかろうと悩むこともなかったのです。

それが年を取るとそれなりに不具合が出てきました。去年は、ばね指といって右手親指の腱鞘炎が続いて、指1本の不具合だけで肩までこわばって、字を書くのも料理をするのも不自由でした。整形外科でも指の専門医を探して受診したら、その場でステロイドの注射をしてくれて、だんだん良くなってきますよということだったのですが、ほんとに時間を巻き戻すように痛みと運動障害がよくなってきて、先生が神様みたいに思えました。今年の秋は風邪が長引いて、途中で結膜炎になって、自分で出した目薬が適当か確認したくて眼科の先生を探しました。夜の咳がひどいとき、これは内科的な咳か鼻症状からのものか悩んだあげく、耳鼻科の先生を探して受診しました。ここでは素性がばれて、子どもの鼻症状からの咳をどう考えてどの薬からアプローチするかの議論になり、小児科と耳鼻科の立場の違いが分かって面白かったです。

いや、病気になったり体調悪いと、お医者にかかるのって、患者さんは気も使うし、緊張するものなのですね。私は、自分の専門範囲内で検査・診断し、なるべくわかりやすく解説し、治療を提示し、やり方については詳しい指導を看護師にも手伝ってもらって、患者さんに納得してもらおうと思って仕事をしていて、それが普通だと思っていますが、患者さんの立場になって初めてわかることもありました。

今年も子どもたちの成長がうれしかったです。泣かずに採血がんばったよと目を輝かせて報告してくれた5歳、全国のそろばん大会で優勝した9歳、ラグビーで全国大会に行く12歳、泣かずに診察させてくれてお口あーんできる2歳、似顔絵付きのお手紙をくれる6歳・・・・みんな、私の仕事の原動力です。ありがとう。

来年もみなさまにとっていい年になりますように。

風邪の咳って?

寒くなってきて、風邪が流行っています。インフルエンザもパラパラと出てきています。
風邪は各種ウイルスによっておこります。ウイルス自体をやっつける薬はありません。インフルエンザウイルスとヘルペス・水痘ウイルスには抗ウイルス薬がありますが、一般の風邪のウイルスには特効薬がないのです。抗生剤は細菌に効きますがウイルスには効果がありません。
ウイルスによって、どこに感染して、どういう症状を起こすかが違うし、個人の免疫力によって、どのくらい重症になるかも異なります。子どもではよく熱が出ますが、これは感染に対して体が反応して体温を上げるのです。ウイルスは人の体温で増殖することが多く、温度が上がると増殖しにくくなるのでからだは熱を出すのです。ウイルスによって、熱の出方が違います。インフルエンザは高熱が3-5日続くことが多く、アデノウイルスは上がったり下がったりの熱が3-7日、小さい子に起こる突発性発疹もウイルスですがこれは高熱がまる三日続いて下がったとたんに発疹が出ます。普通の風邪のウイルスの熱は1-3日くらいで下がることが多いようです。
子どもの風邪でお母さん方が心配するのは咳です。でも咳は、もともと、なにか体に入ってきた悪いものを排除する生理的反応なのです。鼻、のど、気管、肺などにある咳受容体というセンサーに刺激が伝わると、脳にある咳中枢が刺激され、気道の筋肉が動くように指令が伝わり、咳が出ます。異物やウイルスが入ってきたときも同様で、つまり咳は体の重要な防衛反応で、からだにいいことをしているのですね。
小さい子に多いのは、鼻水がのどに垂れ込んで起きる咳です。鼻がかめない2-3歳以下は、鼻水が鼻腔にたまっていて、あふれてのどにおりてくると咳をしておえっと出す。寝ているときにものどにおりてくるとしばらく咳して痰がきれるとまた眠る。こういう咳は、咳を止めるよりも鼻水を減らす、痰が切れやすい薬が効果的です。喘息の発作の時の咳は、気管支が収縮して、痰がたまり、それを出そうとして咳をするので、こういうときに咳止めは禁忌です。それは喘息のガイドライン(教科書みたいなもの)にも書いてあって、発作時に咳を止めると、気管支に痰がたまってしまうのです。気管支拡張剤で気管支を広げるのが第一です。
最近はやっている風邪は、のどにウイルスがついてそれを排除しようとするのどからの咳が出ます。これは乾いた音の咳で、痰はからんでいません。ウイルスが死滅するまで数日のことですが、なかなかしんどいことがあります。百日咳の咳もしつこいので有名です。こういう時は、咳止めを使うこともあります。実は私も風邪をひいて、普通は1週間くらいでよくなるのですが、今年は免疫力が落ちているのか、なかなかよくならず、またぶり返したりして3週間目になります。ちょっと良くなっても、仕事で患者さんと話していると、だんだんのどがいがいがしてきて咳が出始めるのです。のどからの発作的に続く咳で眠れないこともあったのですが、強い咳止めが効いて、なるほど患者さんは薬で楽になるのだなあと実感しました。
皆さんも風邪ひかぬよう、うがい、手洗い、十分な栄養と睡眠、規則的な生活が予防に効果的です。うーむ、自分はこれができていなかったということだな、反省。

湿疹を治していろいろ食べよう

先週、岡山で日本小児アレルギー学会総会があり、土曜日を休診して出席してきました。最近の小児アレルギーは、食物アレルギーの診断、治療についてや、皮膚からアレルギーが進む(経皮感作)という話が中心です。
昔は、赤ちゃんの顔にある湿疹は、乳児湿疹といって、赤ちゃんだからとかそのうち治るからとかいって、治療をせず放置していたものですが、そのうちその皮膚からいろんなアレルゲンが体に入って、アレルギー体質をもつ赤ちゃんにはそのアレルゲンに対するIgE抗体ができてしまいます。抗体を持っていると、初めて食べた卵やピーナツでアレルギー症状を起こしてしまうのです。赤ちゃんでも、局所であっても、早くステロイド軟膏を使って治しておかないと、バリア機能が低下して、どんどんアレルギーが進んでしまうのです。以前は湿疹があると離乳食を遅らせましょうとか、卵は1歳までやめておきましょうと言っていたものですが、逆に早く少しずつ食べさせたほうが食物アレルギーが予防できることもわかってきました。いろんな研究で証明されたのです。今では学会は、「アトピー性皮膚炎の赤ちゃんは早く湿疹を治して、卵アレルギーの発症を予防するために6か月から微量の卵摂取を勧める」という提言を出しています。この時の卵はよく加熱してあることが必要です。赤ちゃんに食べさせやすく手軽なのでよく卵ぼうろを勧める先生がいるのですが、卵ぼうろは主成分のでんぷんが火の通りが悪いので、しばしばアレルギー症状を起こします。それですごく怖がってしまうお母さんがいるのですが、それは選択した食品が不適当なのです。
私が座長をした一般演題のセッションでも、ジャガイモでアナフィラキシーをおこした6歳児の報告がありました。いろんな食物アレルギーを合併している中にジャガイモもある、という患者さんはいるのですが、そういう人はアナフィラキシーを起こすことは少ないし、少しずつ食べられるようになることが多いのですが、この報告例は違いました。乳児期からアトピー性皮膚炎がひどく、母親がステロイド軟膏を拒否して湿疹が何年も続いていたのです。1歳までにジャガイモは食べていたのですが、1歳から保育園に行き始めてジャガイモを食べてアレルギー症状が出るようになりました。ジャガイモのIgEもどんどん上がっていきました。あとから分かったのですが保育園の粘土が、小麦アレルギーの防止のために、片栗粉(ジャガイモの粉)を使っていたのです。湿疹を治さない傷だらけの指でジャガイモを触り続けた結果経皮感作でジャガイモアレルギーになったと考えられ、負荷試験でちょっとのジャガイモでもアナフィラキシーを起こしてしまうほど重症になってしまいました。6歳になって後悔してもあとの祭りです。
これから、皮膚をどんどんよくして、いろんなものを早く食べるようにすれば、いったん増えた食物アレルギーの患者さんも、10年後には減ってくるのではないでしょうか。それまで私がずっと診療をしてられるかどうかはわからないけど。

医療法人 創和会 かめさきこども・アレルギークリニックは豊中市(緑地公園駅近く)にある、小児科・アレルギー科の専門医です。

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