今月の独り言
ゆううつな春
春はいつも駆け足で過ぎていきます。今年も桜が散り暖かくなり新学期が始まりました。
コロナ禍の生活も3年目、政策的な規定はゆるんできているものの、マスクを外して好きな時に好きなだけ遊びに行く、食事をする、飲み会をする、というわけにはまだいきません。本当にこの日々、学会や研究会で同じ医者仲間で情報交換するとか励ましあうとか、愚痴をいって慰めてもらうとか、人との交流で育ち救われてきた人間としては、引きこもりが続くと気がめいって鬱っぽいです。もちろん誰でも大なり小なりそういう影響は受けていると思いますが。
また、最近医師がターゲットになって殺された事件はショックでした。埼玉の訪問医療の医師が亡くなった患者さんの弔問に行って息子に撃ち殺された事件、大阪の診療内科で医師と患者さん方が丸ごと放火された事件。いいかげんな診療や誤診、説明不良など医師としての仕事が悪くて患者さんが怒って攻撃する、というならわかるけど、どちらも誠実に一生懸命患者さんの診療にあたっていた医師だったと聞いています。
私は医者になって40年ちかく、基本は患者さんのためになる医療をしようとやってきて、一生懸命自分のできることで誠意をつくせば報われる、理解してもらえると信じてきました。でもこれらの事件の医師のように、そうやっていたって殺されることがあるんだ、ということで本当に動揺しました。
小児のアレルギーは、慢性疾患で何年ものお付き合いになります。治療は継続することが必要なことが多いです。喘息はいい薬があって、発作をコントロールすれば治っていくことも多いです。アトピー性皮膚炎も最近は適当に悪くなった時にステロイドを塗るのではなく、ずっと塗り続けるプロアクティブ療法が有効ですが、毎日毎日薬や保湿剤を塗るのは大変で、2か月に一回定期的に、調子がいいのに受診するというのは患者さん家族には大変なのかもしれません。食物アレルギーは少しずつ食べていく経口免疫療法で治すしか今は治療がありません。軽い人は年齢がいくと3-4歳で自然に食べられるようになることもありますが、当科に受診される重症のかたは週に3回食べ続けなければ治っていかない方が多いのです。とはいえ忙しい毎日、症状が出るかもしれないのにコンスタントに食べ続けることがどれだけ大変か、きっと私は本当にわかっていないのです。毎日塗ってくださいねーとか、このくらいの量をこれだけ食べて増やしましょうねーとか指導はしますが、その大変なことを日々行うのはご家族なのです。
2-3か月に1回は経過を聞かせてほしいのですが、半年とか1年ぶりに受診され、皮膚がめちゃめちゃ悪くなっていたり、食べるのをやめていたりすると、多分私はがっかりした顔をしていて、ご家族を傷つけているかもしれない。よく聞くと、お母さんが入院して手術をしたり、出産をしたり、実家の介護が大変だったり、お父さんが亡くなったということも何回かありました。日々の生活が大変で、悠長なアレルギーの治療などしてる場合じゃなかったんです。簡単に、毎日塗りなさい、食べさせなさい、なんて言うなあ!と言いたいかもしれない、知らずに患者さんを傷つけていて私も、こんな医者きらいだ!とか思われてるかもしれない。
とはいえ、何年もかかって卵、乳、小麦が食べられるようになったり、喘息の治療が不要になり、ご卒業になる患者さんもいて、仕事を続ける励ましになっています。長い間ありがとうございましたと家族から言われるのですが、いえいえ、何年も通ってくれて、頑張って続けてくれて、ご家族のおかげでよくなったんですよ、こちらこそありがとう、というのが私の本音です。患者さんの頑張りにささえてもらって医者の仕事が成り立つのです。
つらつら思いの揺れる春です。
ひとりごともつぶやけない
3月の独り言はお休みさせていただきます。開業して16年、初めてです。
ものすごく忙しいのと、仕事だけでなく私的にも雑用が増えて、3月は毎日せいいっぱいで、独り言をつぶやく暇もなく忘れていました。年を経て私にも働き方改革が必要なのかもしれません。皆様に楽しい話題やちょっとした明るいニュースを伝えるのがこのコラムの存在意義ですが、コロナ禍で新しい楽しい話題も仕入れができず、ウクライナ戦禍まであるしねえ。
来月はまた明るい独り言ができるようにがんばります。
過ぎゆく2月
寒い2月でしたが、もう終わりかけ。朝から雪の中を駅まで歩き、ホームでも横から降ってくる雪の風に震えた日も何日もありました(近江住まいなんで)。やっと春が来るかなあ。バレンタインデーも冬のオリンピックもスーパーにゃんにゃんの日も終わっちゃいました、あ、鬼滅の刃のアニメ遊郭編も。
2月は新型コロナの感染が子どもたちにも拡大しています。当科でも発熱外来で防備し必要ならコロナの検査をしていますが、1月末から陽性が増え、2月後半は陽性率90%くらいになっています。みんな元気で、風邪と見分けがつきません。熱は1~3日で下がるし、喉が痛いのが時々ありますが、肺炎を疑うような咳や呼吸困難はありません。こんなふうだから学校や園で感染が広がるんですね。でも感染数が増えるともちろん重症者も出てくるし高齢者にも広がるし、医療は逼迫するので大変な状況です。年度末が近いけど、いろんな学校行事や部活や試合なども中止され、受験生も大変で、子どもたちが健やかに生活できるか心配です。子どもたちへのコロナ禍が及ぼす社会心理的影響も小児科領域で問題になっています。
また、アレルギーの生活管理指導表や食物除去の意見書の時期になりました。検査をしなくても書類を書ける患者さんも多いので、親御さんだけでもご相談にいらしてください。食物アレルギーの治療として少しずつ食べていく経口免疫療法をしている患者さんは定期的な検査と指導がいりますが、年長児になって、もう卵は食べない、乳は食べたくない、と決めた場合は、それはそれでありだと思っています。
気候もよくなり、コロナも収まって、明るい春が来てくれることを望んでいます。