今月の独り言
インフルエンザ
インフルエンザが大流行です。今年は流行時期が早く、ワクチンが間に合わない人も多いです。10月半ばから、地域によっては学級閉鎖が始まりました。
11月は小児科一般の外来はインフルエンザに占領されています。ある平日朝の小児科受診40人中、発熱は30人で、そのうちインフルエンザの検査陽性が20人、他院で陽性とされ熱の続いているひとが5人いて、そのほかの発熱は5人のみでした。
インフルエンザは初めから高熱で、それが下がらずにずっと続くことが多く、患者さんはぐったりしてぼうっとしていることが多いです。高熱で熱性けいれんが起きることもあります。先週は待合室でけいれんを起こした子がいて、けいれんは止まったけれど意識の回復が悪かったので、救急車で病院に紹介入院となりました。
今はインフルエンザの薬があります。ウイルスの増殖を抑えるノイラミニダーゼ阻害薬といって、タミフルが有名です。1日2回5日間飲まねばなりませんが、古くからある薬でエビデンスも多いし、昔は異常行動との関連を疑われましたが、異常行動はインフルエンザ自体の症状であって、薬のせいではありません。熱が下がってからも薬を飲むのは面倒かもしれませんが、一番効果があり、信頼がおけます。
イナビルといって吸入1回でいいという薬も出て、1回ですむので人気ですが、ちゃんと吸えなければ効きません。これは、薬局で薬剤師が指導してちゃんと吸えることを確認することが義務づけられています。それでも薬の吸入なんてやったことがないと、大人でもうまく吸えません。吸えたはずなのに熱が続くという小学生が何人もいました。今日来た6歳の幼稚園児は休日開いている診療所でイナビルを出されて、家で吸ったけどうまくいかなかったと母。薬局で実際に吸っていないのです。熱はそれから4日間続いています。処方箋をもっていったのは大手薬局のチェーン店ですが、アタマにきて電話しました。そしたら、感染予防の点から、店頭ではしなかったがちゃんと親に吸入の仕方を説明したというのです。一般のひとや子どもがいくら口で説明されても吸入ができるはずがなく、吸えてないのを薬剤師が横でみて、何回も指導してやり直して吸うからなんとか薬が入るのです。薬局なんだから、感染予防なんて言い訳にならないでしょう。ちょっとあきれてしまいました。こういうこともあるので私はなるべくイナビルは処方しません。
ゾフルーザといって1回で飲むだけですむエンドヌクレアーゼ阻害剤も最近出た薬です。これも効けばいいのですが、まだエビデンスが十分でなく、私は処方しませんが、ちょっと効き目はどうかなという気がします。
昔はインフルエンザは薬もなく、検査キットもありませんでした。皆、自分の免疫力を頼りに家で1週間熱に苦しんで過ごし、中には脳炎や肺炎など合併症で命を落とす人もいたのです。今は薬で早く治るので夢みたいです。皆さん、元気で頑張りましょう。
ワクチンで・・・
私が小児科医になった40数年前は、ワクチンは一部に限られ、効果も不十分でした。子どもの病気は大多数が感染症で、それで亡くなったり、後遺症が残ったりすることが多かったのです。小児科医の仕事は感染症との戦いでした。
麻疹(はしか)は、どんな子どもも一度はかかるもので、「はしかみたいなものだ」という慣用句は、だれもが一度は若い時期に経験するもの、という意味でよく使われていました。ワクチンが始まったのは1972年で私の研修医時代はもうずいぶん減っていましたが、1回接種だったので十分な予防効果はありませんでした。医者になって初めて担当した死亡した患者さんははしかの脳炎の女の子で、けいれんがとまらず、入院して亡くなるまで意識は戻りませんでした。水痘(水ぼうそう)になると、全身みずぶくれの発疹がたくさんできて、きれいに治るか心配だったものです。流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)は、耳の下が腫れて痛いのですが、病気自体より合併症が問題でした。髄膜炎は多かったし、男子では精巣炎で睾丸が腫れて、無精子症になる人もいました。最近では、聴力障害が後遺症で多いことがわかってきました。風疹(三日ばしか)は、病気自体は軽いのですが、妊婦が感染すると胎児に影響が出て、先天性風疹症候群(心疾患、難聴、白内障など)の赤ちゃんが数多く生まれていました。あとからではどうしようもないのです。百日咳も乳児がかかると呼吸障害がひどくて命にかかわります。2か月になったらすぐワクチンです(5種混合)。
研修医のころ、乳児の髄膜炎は重症な病気で、それを起こすインフルエンザ菌は今ワクチンで激減しました。乳児の髄膜炎は1/3は死亡し、1/3は後遺症が残り、回復するのは1/3でした。ロタウイルスも重症な胃腸炎を起こす病原体で、乳児がかかると重症化しやすく、長いあいだ点滴治療が必要です。伝染力が強いので、病室がまるごと隔離部屋になり、6~8人の乳幼児がまとめられ、「ロタ部屋」と呼ばれていました。
これらの感染症は、ワクチンの普及によってもうほとんど見なくなりました。若い小児科の先生方は教科書でしか知らないでしょう。本当にありがたいことです。でも、日本は恵まれていますが、多くの開発途上国ではまだ多くの子どもたちが予防できる感染症で死んでいるし、大人の戦争によって死ぬ子どもたちもたくさんいます。子どもたちの命は健康は、大人が守らねばならないのです。
インフルエンザワクチン
9月も終わりになってやっと少し涼しくなってきました。
10月からインフルエンザワクチンが始まります。今年は本格的に、フルミストという鼻にスプレーするタイプのワクチンが始まります。今までの注射と違って痛くないし、1回ですむ、2歳から18歳まで用の新しいワクチンです。痛くないので子どもにはいい!と多くの小児科でこぞって取り入れています。しかしうちのクリニックでは今年は見合わせようということになりました。
このワクチンは、インフルエンザウイルスを弱毒化してそのものをスプレーで鼻にいれます。鼻粘膜に直接感染させるので、鼻粘膜の弱い人は鼻水、鼻づまり、喉の痛みなど、軽い風邪にかかったような症状がでることがあります。2週間程度は、免疫の弱い人と接触すると感染させるおそれがあります。慢性の気道感染のある人には推奨できないとされています。
当科はアレルギーの専門の小児科です。気管支ぜんそくで長期管理の治療をしている患者さんは多いし、ぜんそくの小児の8割はアレルギー性鼻炎を合併しているので、このワクチンはあまりお薦めできません。ぜんそくもアレルギー性鼻炎も慢性的に気道過敏性が高いのです。2歳から4歳のぜんそくのある児は禁です。ワクチン接種は当科ではネット予約になっていますので、たくさんの患者さんに、喘息や鼻炎があるのか、鼻スプレーをしてもいいのかを問診するのは不可能なのです。また、新しいワクチンなので、たくさんの小児にこのワクチンをすると、どのくらい副反応がでるか、どのくらいの効果があるのかまだわかっていません。
なので、今年は見送りで従来通り注射でのワクチンをいたします。痛くないように上手にするので、みんながんばろうねー!

