今月の独り言
はしかはこわいよ
今年麻疹(はしか)が流行していると伝えられています。現在2025年で78例の報告があります。
麻疹は2000年に定期のワクチン接種が始まってから発症が激減していました。麻疹は空気感染をし、感染力が強く、有効な治療法はありません。ワクチン接種で免疫をつけるしかないのです。最近の麻疹の発症はワクチン接種をしていない人ばかりで、ワクチン接種の進んでいない海外での感染、もしくは外国人の感染持ち込みがほとんどです。
昔ははしかは、病気になってそれで免疫をつけるものでした。水痘も百日咳もおたふくかぜもそうです。でも一定数の子どもが合併症で命を落としたり後遺症が残るのです。麻疹は発疹と高熱がつづく病気で、その状態自体もしんどいのですが、多く中耳炎や肺炎を合併し、1000人に1人は脳炎の合併があります。治療法はなく、脳炎になると1/3は死亡、1/3は後遺症が残り、1/3が回復するといわれていました。
私が40数年前小児科医になって初めて担当して死亡した患者さんは4歳の麻疹の脳炎の女の子でした。麻疹罹患後脳炎でけいれんが止まらず、私のいた小児専門病院に搬送されたときは、けいれんは止まっていましたが意識のない状態でした。何も助ける薬はありません。いっぺんも目覚めることもなく、数日で亡くなりました。何もできないという無力感は今も忘れられません。
私も幼児期で覚えていませんが、母が「あんたのはしかはひどかった」と何度も言っていました。昔は、いろんな感染症にかかって生き延びた子どもだけが大きくなっていったのです。
1歳になったらはやくMRのワクチン接種をしてください。2回目の追加接種は小学校に入る前の1年間です。注射いたいよね、でも頑張ってね、これは君たちの命を守る大切な注射なんだよ、とご家族も励ましてあげてくださいね。
花粉症はいやだね
3月は長い間寒かったのが、後半になってようやく暖かくなってきました。でもそうなると、スギ花粉の飛散が増えて、花粉症の症状が増えてきます。
この時期、外来をしていると小さな子でもお母さんが、花粉症みたいで・・とよくおっしゃるのですが、要は鼻水が続くということなんですね。でも普通は、3歳以下の小児に花粉症はあり得ません。アレルギーの体質のある人は、何かアレルゲンが体に侵入すると(触ったり、吸ったり、食べたりとか)、IgE抗体という、そのアレルゲンに反応するタンパク質を作ります。それがたくさん体の中にあると、入ってきたアレルゲンに反応して、アレルギーの症状(かゆみ、じんましん、鼻水など)が起きるのです。スギ花粉は年に1回、2~4月に飛散しますから、それを取り込んでIgE抗体ができる。でも5月以降になるともう花粉はないので、体にあったIgE抗体はだんだん減っていきます。そして次のシーズンにまた花粉にさらされてIgE値が増えます。これを数年繰り返して、2月の時期にある程度の量の抗体を持っていないと症状は出ないのです。
IgE抗体をどのくらい作るかは、個人のアレルギー体質の強さによるし、どういう生活をしてどのアレルゲンがどのくらい侵入するかなど、いろんな要因があります。アレルギー体質の強い場合は5-6歳の小児でもスギ花粉症を発症することはあります。
でも、2-3歳のおちびさんの鼻水が続くのは、うまくかめずにすすったり、寒暖差の刺激で鼻水が止まりにくかったり、保育園で鼻かぜをもらったりとかがほとんどです。2歳になったら鼻かみの練習をして、ふがふがいいながらも機嫌よく食べて眠れていればあまり心配はいりません。
それぞれに春の楽しみをみつけてお過ごしください。
スクリーニング検査って?
アレルギーの検査は、それぞれの物質に対してIgE抗体を持っているかを調べ、それによってアレルギー反応が起こるかで診断します。IgE抗体をもっていることを感作されている、といいますが、実は感作されていても症状がなければ、アレルギーの病気ではないのです。卵白のIgE がクラス3あっても、卵がたべられていれば卵アレルギーではないのです。
最近、アレルギーのスクリーニング検査が普及してきました。スクリーニング検査というのは、初めから食物アレルゲン、HD ダニ、イヌ、ネコなどの環境アレルゲン、花粉アレルゲン、カビアレルゲンなど、何種類もが組み合わされて決まっており、39種類とか、33種類とかのIgE抗体がいっぺんにだーーっと測定できるのです。最近では指先の血液少量で、30分で結果が出るドロップスクリーンというのもあります。
スクリーニング検査というのは、何がアレルゲンがあるかよくわからないので、アレルギー非専門の医師が行うのです。例えば、鼻がぐずぐず続いてアレルギー性鼻炎を疑う大人に行うと、スギやヒノキ以外の夏の花粉や、ハウスダスト、ダニが高値で、ネコにも感作されていたとします。アレルギーの検査は、感作されているものに気をつけてね、とそのまま渡すのではなく、それがほんとうに症状を起こしているのか、薬の処方だけでなく、そのアレルギー対策を指導しなければ意味がありません。春の花粉の時期の花粉対策は一般的に知られるようになっていますが、家の中の環境を見直してダニ対策、飼っている猫対策をしなければ鼻炎症状はよくなりません。
アレルギーの感作は、乳幼児期には食物アレルゲンが多く、2歳以上になると環境アレルゲン、4~5歳以上になると花粉アレルゲンが増えてきます。ですから乳幼児にスクリーニング検査をしても、花粉やカビなどは不要ですし、大人のスクリーニング検査に入っている食物アレルゲンは多くは不要で、もし感作があると、今まで食べていたのに食物アレルギーになった??などと考えたりします。
小児のアレルギー専門医は、乳幼児の食べ物で、何をどう、どのくらい食べてどうなったかを詳しく聞いてそれに応じたアレルゲンを選んで、CAP RASTというアレルギー検査をします。13項目まで保険でできますが、感作されているだけなのか本当に食べて症状が出るのかは、コンポーネントと言ってその食品のアレルギーを起こす蛋白成分のIgEを調べます。卵白のオボムコイド、乳のカゼイン、小麦のω-5グリアジン、ピーナッツのAra h 2,クルミのJug r 1などです。ピーナッツに陽性でもAra h 2陰性ならピーナッツアレルギーではありません。検査はして終わりではなく、その意味を説明し医学的対応を指導しなければ、意味がないのです。
当科で8年間食物アレルギーの負荷試験・経口免疫療法をしてきて卵と乳が食べられるようになり今小麦で頑張っている子のお母さんが、他院ですすめられてしたスクリーニング結果をもって相談にきました。ずっと普通に食べている米と大豆に感作があったのです。もちろん食物アレルギーではありません。説明して安心してもらいましたが、そんな混乱もおこすスクリーニング検査です。